PiPi's World 投稿小説
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No973-2009/06/13 02:33
柚子小町(SH706i)
厭じゃない。彼女がいない世界も。
 
つけっ放しのテレビから流れる、深夜映画。
ぐだぐだのストーリーに、彼女の講義が始まる。

帰りに買った、ジャンクフード。冷めたチキンに、彼女の文句が聞こえてきそうだ。

何を、していても。
常に彼女は、此処にいる。
ただ―――
…空っぽだ。

もう、思い出せない、彼女のぬくもりを求めて。

今日も煙草に手を伸ばす。

彼女が好きだと言った歌を口ずさみながら。


『口ずさみながら』でお願いします。
No972-2009/06/12 22:52
リラ(F704i)
苦しませないで。
何も残したりしたくはないの。
わたしが居た痕跡なんて──

灰になったわたしを抱く、彼の温度を今更に、感じた。
消えたがるわたしを誰よりも理解しているくせに、誰よりも大切に、こころに残しておくのだろう彼の体温。

灰になったわたしは風にさらわれる。
例えば此の先、わたしのある部分はさかなに飲み込まれるだろう。
其のさかなは何処かの台所へ辿り着くかもしれない。他の大きなさかなやくじらなんかに食べられて仕舞うかもしれない。
わたしの身体は、そうして大きな環に溶けていく。
残りはしないのだ。残らないまま巡るのだ。

だけどいちばん消したかったもの──わたしの存在は、彼の中に保存される。

そして、夫れは、厭じゃない。
「厭じゃない」で
No971-2009/06/11 13:02
フロムポスト(CA38)
姫は海の泡となって消えた。
そんな物語を昔、読み聞かせられた覚えがある。
そんな綺麗な結末は、空想の物語だからこそできる終わり方なのだと、改めて実感する。
日本に生まれた人間の終わり方は、焼かれて、灰になる事だ。
少なくとも今ぼくの持っている骨壺の中には、そうなった彼女がいる。
あんた、分かってるよ。
そう言って大笑いした彼女、何故だろう、その時の彼女の笑い声を、ぼくは上手く思い出す事ができない。
誰かが言った。
灰すらも何時か、生命の巨大な循環の中に還る、と。
なんて皮肉な事なのだろう。
あれ程消えたがっていた彼女は、死んで尚もまた生命に還ってしまうのか。
「もういいだろう。いい加減彼女を休ませてやれ」
自然に口から出た言葉、それは、誰に向けたものなのか。
ぼくは海に行き、彼女の骨壺を崖から投げ捨てた。
できるだけ遠くに飛ぶように、ぼくの全力の力で。
そうすれば、彼女はちゃんとどこか遠い所に行ける気がした。
頼むから生まれ変わらないでくれ。
頼むから、もうこれ以上彼女を苦しませないで。

『苦しませないで』、で。
No970-2009/06/11 08:13
spring(HI3F)
「『海に溶けていった君。知らないままに、僕は君を傷つけて。挙げ句、君が消えた後に、こんなにも君が大切だと気付くなんて。』」
「何?突然。」
「何となく。歌ってみたの。」
「なんかヤダ。切ないし哀しい。」
「そうね‥でも私は羨ましい。」
「なんで?」
「気付くのが遅かっただけで、ちゃんと愛されてたって事じゃん?」

そう言って哀しく微笑んだ彼女を見た日が最後。彼女は突然僕の前から居なくなった。彼女はどんな気持ちであの歌を歌ったのだろうか。

ごめん。気付いたから。迎えに行くよ、僕の人魚姫。

次は『姫』からでお願いします。
No969-2009/06/10 22:07
リラ(F704i)
「消えるだけの生き方」と、彼は言った。
「何も残さない」という意味だと解釈した。

だけど。
煙草の灰は、残る。
そして。
其の灰は、何時か生命の巨大な循環に還るのだ。

だとしたら、全てのひとは、生き物はただ、燃え尽きて消えるだけの生き方だと言える。

残る物が財産であれ遺伝子であれ、誰かの胃袋におさまった後に棄てられる骨──皿の上にはチキンの骨とプチトマトのへたが遺っている──であれ、何時かは消えてしまうものだ。

「300年したらたぶん、人類なんて滅亡してるわよ」
と言ってみた。

白紫と灰色、2色の煙が絡まり合い、空気に溶けていった。

『溶けていった』でどうでしょう
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