PiPi's World 投稿小説
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No978-2009/06/26 20:42
賢(PC)
「蒟蒻惑星に着陸できればいいんだけどね」
「どうして?」
「痛くない」
「でも普通の人だったら蒟蒻惑星に着陸したいだなんて思わないよ」
「普通の人は、きちんとした地盤を持った惑星を好む」
「そう」
「でもさ、地球から放り出されて、宇宙を猛スピードで漂っている私たちを優しく受け止めてくれるのなんて、蒟蒻惑星くらいのものじゃない?」
「大丈夫だよ、固い地盤との衝突でも耐えられるように人間は出来てる」
「でも痛い。痛いのは嫌」
「でも、蒟蒻惑星に着陸したら、その後どうする。蒟蒻地盤の上でちゃんとした暮らしが出来るかな」
「出来ないかもしれない。でもとにかく衝撃の痛みは無い。ショック死もしない」
「幸せの獲得よりも不幸の回避」
「私には性にあってる。役に立たないけど柔らかくて優しい蒟蒻惑星」
「君は弱いね」
「弱いわ。でも私は自分の弱さが好きよ。強さはだれか他の人が担当すればいい」
「例えば僕」
「例えばカブトムシ」

お次は「カブトムシ」で。
No977-2009/06/26 01:21
リラ(F704i)
気付いたのか?
物音に思わず寝室を振り返った。
否、大丈夫。寝息が聞こえる。
たぶん寝返りをうった時に、壁にでもぶつかったのだろう。

別にばれたって構わないのだけど、今日はひとりで飲みたかった。
I.W.ハーパー12年をon the rocks、ロースハム、オリーブ、コルニション。



気付いてしまったのはわたしの方だ。
わたしはあなたのことを、知ってるふりして、きっと何にも知らない。

そりゃそうだ、わたしは自分のことすらよく知らない。
寧ろあなたの方が知ってるのかもしれない。

ねえ、
ドアいちまい隔てただけで、どうしてこんなに遠いんだろう?

あなたは相変わらず優しくて素敵な夫だけれど、
わたしを繋ぐ鎖は今にもほどけて仕舞いそうなんだ。

遠心力で、蒟蒻宇宙に飛ばされて終いそうなんだ。

そう、今結構、酔っている。

永遠に
漂う
杭を打っても
頼りない
蒟蒻地盤の蒟蒻惑星



『蒟蒻惑星』で誰か遊んでみてください。
No976-2009/06/15 11:24
フロムポスト(CA38)
道を歩き続けながら、ぼくは高村とケイコの顔を思い浮かべようとした。
自分の中に散った彼らのかけらを集め、それを繋ぎ合わせる事で、記憶にかかったモザイクを晴らそうとした。
葬式で見たケイコの死に顔、泣く事もせず、ただ呆然としていた高村。
あの頃のぼくらは、こんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
明日がぼくらを呼んだって、返事もろくにしなかった。
でも確実に、明日はぼくらに呼び掛けていた。
あの頃のぼくらは無知だった。
今という数瞬で消えてしまう箒星ような瞬間を、永遠だと信じていた。
未来が容易く思えた、過去なんて下らないと笑った。
その全てがぼく達を思いもよらない方向に突き動かす事も知らずに。
あの時から、今という箒星を、もうぼくは追い掛ける事が出来ずにいる。
「時間は、あの時から止まったままなんだ。遠ざかって消えた背中。ロストマン気付いたろう」
あの頃三人で、歌っていた歌は、今はぼく一人で歌っている。
ねえ、ロストマン、あなたは本当に気付いたのか?

『気付いたのか?』で
No975-2009/06/13 17:07
コルト(TS3H)
「帰ろう。今すぐ」
 違和感を覚えるのに時間はかからなかった。近道のつもりで入った山道は、延々と続く上り道だった。天への一本道のように、まっすぐのびている。進む度に暗闇は深まり、車のライトをハイビームに切り換えても、視界は一向に良くならない。
 途中の開けた空き地でUターンをして、この終わらない道から脱出を試みる。
 再び道へ車を走らせると、またもや違和感が襲いかかった。
「上り道……?」
 おかしい。Uターンしたなら下りのはずだ。焦燥感と恐怖が心臓を責める。
「そうだ、このままバックしたら……」
 前方が上り道なら後方は下り道という常識を信じて、車を思い切りバックさせる。すると車は
上り道を進んだ。
 バックしても上る。進んでも上る。
 一体どこまで登れば、下り道は現れるのだろう。





オチが思いつかない^q^
「道」で!
No974-2009/06/13 16:42
髭(SN3K)
口ずさみながら歩いたこの道も、今ではずいぶんと狭く感じて、僕は今一度大人になってしまった自分の事を考えた。昔には僕と高村とケイコの三人で、そこのベンチに座ってよく歌ったものだった。
「もう一度君に会おうとして、望遠鏡をまたかついで……か」
懐かしかったあの頃の思い出も、今となっては輪郭を失ってしまった過去の情報でしかなくて、僕と高村がケイコの事を好きだった事や、ケイコと高村が付き合った事や、最後にケイコが死んでしまった事なんかも、僕はもう思い出すのも難しい。
「前と同じ、午前2時」
はぁ、とついたため息が夜に消えて、僕はほとんど泣きそうになった。





さぁ帰ろう。







次、「帰ろう」で。
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