PiPi's World 投稿小説
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No929-2009/04/03 22:43
リラ(F704i)
改めて探す。
鞄もポケットも、尻と背もたれの間もスカートの影も。

ない。

トイレ?いや、トイレでは出してないはずだけど、念のためつい先程出てきたばかりのトイレへ戻る。

ない。

どうしよう。

現金だけなら諦めもつくけれど、カードも(あと200円分でいっぱいになるパン屋のスタンプカードも)免許証も、保険証だって入ってる。

そして何よりその財布は、今テーブルの向こうで
「さっきからなにを探してんの?」
と尋ねる彼からもらった、大切な財布だ。

みかける度に、欲しいけど…と口にも出さずに諦めていた財布。
先月の誕生日に、サプライズで彼がくれたのだ。

『いつも見てれば、欲しいものくらいわかるよ』
と。

困った。

デートは割り勘が基本の私にとって、財布をなくしたこと、よりによってあの財布だったこと、──ショックだ。

お店に入るまでは持ってたのに。

「ほら、出よう?」
と伝票を取り、彼はさっさと支払いを済ませ、店を出る。

「ちょぉ待っ…」
追う私を笑顔で振り返る彼の手には

──私の財布──

「なんで!?」

私の慌てぶりに彼は吹き出し、そして言った。

「たまには、ごちそうさせてよ。」


長くてすみません。
「ごちそう」で。
No928-2009/04/03 16:27
髭(SN39)
「ツッコミ」
「えっ?」
昼休みの陽気な空間にそんな声が響いた。どうやら僕はまた何か間違いを犯したらしい。彼女が端的に言葉を発する時は決まってそうだった。
「だから、ツッコミ」
「……なんでやねん!!」
はぁ、と大きなため息が賑やかだった部屋に、空気に似合わない程満ちる。また僕は間違ったらしい。
「関西人なめとるやろ」
「いや、なめてはいないよ。侮辱してるだけで」
「それ一緒やん!」
バシッと彼女の平手が僕の側頭部に当たる。おぉ、ナイスなツッコミだ。
「わかるか、これがツッコミや! 漫才の基本や!! ボケて、ツッコむ。覚えとけボケ!」
あぁ漫才の話だったんだ、と僕が一人納得していると、彼女はますます不機嫌になった。また間違った?
「はぁ、まぁいいわ。アンタにコミュニケーションを望んだ私がアホやった」
そう言って煙草に火をつけたその仕草が、僕はたまらなく色っぽく思えた。
「色っぽいね」
「……アホ!! 真面目に言うな! 恥ずかしいやん」
うん、ナイスツッコミ。端から見たら、ノロケに見えるのかも知れない。これも一つの繋がりなんだ、と僕は改めて彼女を好きになった。




意味わからんですね。
次『改めて』で。
No927-2009/02/09 01:44
白いフクロウ(812SH)
 頷いたように見えたけど、多分ちがう。
 「起きてる?」
 そう尋ねると、もう一度コクンを頭を下げた。
 「寝てる?」
 また、コクンとなる。
 「……聞いてる?」
 コクン。
 ……ダメだ。これは、寝てる。
 「ねえー起きてよー!」
 肩を揺すると、それにあわせて首が揺れた。
 「あーうー」
 「起きてよう!」
 トロンとした目つきで私を見る顔は、もう夢の中一歩手前から、半歩くらい進んだところにいた。
 「ねえってばー!」
 さらに強くガクガク揺すっても、やっぱり起きない。
 「ねえ……起きてよ……」
 私のほおを、涙が伝った。
 本当はわかってる。もう、目が覚めたりしないことを。――認めたくなんか、なかったけど。
 だって彼はもう、この世にいないのだから――

 「いや待て! 勝手に殺すな!」

 ガバッと彼が跳び起きた。
 「おはよー」
 「……あれ?」
 「どしたの? ヘンな夢でもみた?」
 「いや、なんか勝手に死んだことにされた気がして……」
 「なに言ってるの? ヘンなまあクン」
 「……あれ?」
 彼を起こすにはこれが一番だ。彼のツッコミ気質は、変なところで役に立つ。

『ツッコミ』で
No926-2009/01/14 23:59
髭(SN39)
「can you feel?」

スピーカーの向こうでピロウズが歌う。僕はその音をゆっくりと認識しながら源本に言った。
「なぁ源本。音楽の力で世界を変えるのって、どんな気持ちなんだろうな。きっと凄いんだろう?演奏してみてえな、そんな世界で」
源本はベースを指で弾きながら首を縦に降った。

「きっと、まだ、限界なんてこんなもんじゃない」

ピロウズが歌う。源本はそれにあわせてリズムを刻む。ピロウズのコピーバンドも悪くないな、そう思った次の瞬間、めったに口を開かない源本が喋った。
「俺たちの限界だって、こんなもんじゃないだろう?いつか武道館でやってやる、ぐらい言ってくれよ」
源本の眼が真剣だった事がとても印象的だった。僕は、源本と僕の将来について考え、そして音楽の未来と素晴らしさについて考えた。
きっとまだ、限界なんてこんなものじゃないんだろう。

僕は唇をギュッと閉め、源本に向かって力強く頷いた。



好きな曲だったのでつい……。次は『頷いた』で。
No925-2009/01/14 18:55
フロムポスト(CA38)
喜んだふりが上手くなった。
同じ位、陽気なふりも上手くなっていった。
誰かが言った。
あれだけ目を輝かせて見つめていた夢も、手に入れてみれば、それはただの現実だった、と。
誰かと笑い、手を叩き合い、そしてまた狂ったように笑い合う。
その裏で確かに膨らんでいく、絶対的な虚しさと、絶望。
嬉しいよ、誰かにそう言ってみる。
違うだろ?
お前、嬉しがってなんかいないだろう。
虚しさが、そう言う。
それは自分以外、誰も受け止められないモノ。

can you feel?
can you feel that
hybrid rainbow?

歌ってごめんね。
本当は、虹なんか見えないんだ。
嘘吐いてごめんね。
ぼくはきっとストレンジ・カメレオンなんだ。
向こう岸に渡りたいって、そればかり考えてるんだよ。
今でも、ずっと。

次回は少し難しめに
「can you feel?」
でお願いします。
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