PiPi's World 投稿小説
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No979-2009/06/27 18:40
リラ(F704i)
「カブトムシが強さの象徴であると、きみは思うの?」
「少なくとも男性にとってはそうなんじゃないの?」
「どうして?」
「カブトムシやクワガタムシで代理戦争するじゃない」
「まあ、みんなじゃないけど確かに子供の頃にはね」
「子供の頃と今とで、年齢以外に何が違うの?」
「理不尽だな、きみは。年齢があがるにつれて経験も増えるだろう?」
「本質は?」
「ずるいな、きみは。確かにそう簡単には変わらないかも知れないけれど」
「ほら、あなたの宇宙はカブトムシ宇宙なのよ」
「きみの宇宙は蒟蒻宇宙」
「破壊力より衝撃吸収」
「玉蒟蒻惑星人のきみと、カブトムシの背に乗った平らなかたい地盤の、カブトムシ惑星人のぼく」
「相容れないわね」
「頑なだな、きみは。弱くて理不尽でずるくて頑なだ」
「あなたは脆くて理屈っぽくて往生際が悪くて分類好きよね」
「なんて宇宙は広いんだろう」
「宴会場みたいよね」

次は『宴会場』で
No980-2009/06/28 16:32
髭(SN3K)
宴会場が盛り上がっていくにつれて、僕のテンションは反比例の様に下がっていった。複雑にからみあう人の思案と欲望は、この後に行われる大きな儀式によって別れていく。
「んじゃぁこの辺で、二次会行くヤツ手ぇ上げて!」
幹事の木村響がそう音頭をとると、次々と上がる手に僕は彼女の白い手を探した。見つかりはしないとわかっているのに。




ケイコが死んでから、なんとなくやらなかった同窓会をやろうと言い出したのは他ならぬ高村だった。
「なぁシンゴ。そろそろ、俺達は俺達でケイコから離れなきゃならないんじゃないか?」
そんな風に言った高村を、僕は力いっぱいに殴った。二次会なんて糞食らえだ、と大きな声で叫んだ。


そらには満天の星空が輝き、僕とケイコを繋げるすべてを否定している様にも見えた。
そんな風な空を見て、僕は泣いた。高村でもケイコでもなく、僕自身の為に。





つぎ、「僕自身の為に」で。
No981-2009/07/03 19:52
八厘(911SH)
「僕自身の為に僕は生きてるから、君は君の為に生きてるのが自然じゃあないかい?」
「そうね」
「誰かの為に生きるなら、僕は僕じゃない誰かになる必要があるんだ」
「誰かの為に生きる誰か、ね。ねぇ、誰かさんは二人かしら?それともあなたの言う通り、一人なのかしら?」
「誰かは分からないけど、誰かの為に生きる誰かが誰かは分かるよ。だってそれは誰かの為に生きようとする誰か自身なんだもの」
「誰か自身にしか分からないのね」
「誰かは誰か?」
「誰か=誰か?」
「誰かが誰かだから僕は僕。そして、君は君。僕が君で君が僕、あるいは僕が誰かで誰かは君」
「いつか、私でもあなたでも誰かでもない誰かになれるかしら」
「そうだね、仮想現実の住民になればいい。あそこには誰かも何もない、僕達からすればね」
「そう。けど、その住民達もまた誰かを誰かと意識するのよ。仮想であれど現実だから」
「誰の?」
「"誰か達"の」
「正解。残念だったね、アバラ。誰か無しでは世界が成立しないみたいだ」
「ええ。本当に残念だわ、土くれ」





「土くれ」です。
No982-2009/07/04 14:05
白いフクロウ(831P)
 「土くれ」
 「は? 土?」
 「そこにあるだろ、腐葉土。それくれ」
 「ああ、そういうことね」
 旦那の趣味は庭いじり(ガーデニングと呼べ、とうるさいけど)。正直何が楽しいのかよくわからない。
 「ねえ、なにしてるの?」
 たまの休みくらい趣味に付き合ってあげようとこうして麦わら帽子を被っているわけだが、旦那は相変わらずお花と楽しそうにお話中だ。
 「ん? いまは茄子の種を蒔いてるところ」
 「ナス?」
 そんなものわざわざ育てなくても、買えばいいじゃない。
 「……ねえ。それ終わったらでいいからさ、たまにはどこかいっしょに行かない?」
 「ん、別にいいけど夕方になるぞ」 
 夕方!?
 この人は、一体何時間植物と語らう気なんだ?
 「もーいい」
 いい加減いやになった私は、部屋に戻ることにした。旦那は振り向きもせずに、ナスの種とやらをばら蒔いている。私が怒っていることにも、気づいていないみたいだ。


『ナス』で
No983-2009/07/08 19:56
麻亜(P905i)
ナスを植え終わったのはやはり夕方になり、これからどこかに出かける気力もすっかり失せ、とりあえず二人でスーパーへ買い物にやって来た。

今日は何にしようかな。

野菜コーナーではピーマンのバラ売りに『今日の特売品』と紙が張られている。
「ねぇ、今日はピーマンの肉詰めでいい?」

「おう、何でもいいぞ」

出た。旦那の何でもいいぞ。
私はふっと短いため息を吐きながら辺りを見渡す。

「あ、また野菜の値段が上がってる」

私の独り言に旦那はまさかの反応を見せた。

「やっぱりか!?」

「え?…うん」

「ナスもか!?」

私はナスの値段を確認し、こくんと頷いた。
すると、何やら嬉しそうに、また、得意気に顔を綻ばせた旦那は言うのだった。

「今日のナスが立派に育ったらさ、麻婆茄子、作ってくれ!」

私ははいはい、と素っ気ない返事をしつつも、色々なことが嬉しくて、自然と笑っているのだった。




え〜次は『笑っている』からお願いします(*^^*)
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