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雑談BBS

No856-06/09 01:35
男/フロムポスト
CA38-kJEqyDBA
「信じるって絶望だよね」
彼女はひどく真剣にまっすぐな目で水平線の彼方を見ながらそう言った。
彼女は少しエキセントリックだ。
今までもずっとそうだった、多分これからもずっとそうだろう。
彼女はきっと変わらない、まるでこの海に毎日太陽が落ち続けるように。
「だってそうだよ。信じるって相手の全てを享受するって事でしょ?もしそれが裏切られても傷つけられても全部。絶望だよ、そんなの」
彼女の言葉を飲み込むように、波が音を立てて打ち寄せる。
確かに、何かの、或いは誰かの全てを受け止めるにはこの世界も私達もあまりに不安定で不確かだ。
信じる事は、絶望なのかもしれない。
でもね? と彼女は真剣だった表情を微笑に代えて私に向けた。
「それでも私達は信じ続けるの。裏切られる事も傷つけられる事も心のどこかで分かっていながら誰かを信じるの。恋をしたり尊敬したり同情したりしながら。私達は絶望しながら生きるの。そうしないと生きていけないの」
そう言って、彼女は突然波打ち際へ駆け出した。バシャバシャと波を踏み荒らす音がする。
それはまるで戦場の銃声だった。
日常世界のシェルショック。
愛しくて仕方ないと、誰かが叫んでいるようにも聞こえる。

「聞こえる」で。
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