PiPi's World 投稿小説
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No857-06/09 02:56
男/TALE
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>856より

聞こえるかどうかは知らないが、糸電話を月まで繋げてみた。

そしたら確かに聞こえたんだ。
何が聞こえたのかと聞かれても、何と答えて良いものか分からない。

分からないけれど、例えるなら、そうだな。ゴーとかガーとかいう音だ。

俺にはそれが何の音か分からないし、例え他の人に聞かせたとしても分からないだろう。

もしかすると、それは月の言葉なのかも知れない。

もしかすると、それは何でもない事かも知れない。

でも確かに聞こえたその音は、俺の心に強く響いた。

言うなれば、どこか懐かしい、それでいて新しい何かを見つけた時の感動に良く似ている。




俺は、壊れてしまった……そう、思い込んでいた過去の俺に……こう、言いたい。




光らなくなったその模型、ただの電池切れですよ、と。
それと、糸電話は聴診器の代わりには多分なりませんからね!

物置に忘れ去られた物体を手に、俺は心の中で呟いた。




>お次は『呟いた』で。
No856-06/09 01:35
男/フロムポスト
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「信じるって絶望だよね」
彼女はひどく真剣にまっすぐな目で水平線の彼方を見ながらそう言った。
彼女は少しエキセントリックだ。
今までもずっとそうだった、多分これからもずっとそうだろう。
彼女はきっと変わらない、まるでこの海に毎日太陽が落ち続けるように。
「だってそうだよ。信じるって相手の全てを享受するって事でしょ?もしそれが裏切られても傷つけられても全部。絶望だよ、そんなの」
彼女の言葉を飲み込むように、波が音を立てて打ち寄せる。
確かに、何かの、或いは誰かの全てを受け止めるにはこの世界も私達もあまりに不安定で不確かだ。
信じる事は、絶望なのかもしれない。
でもね? と彼女は真剣だった表情を微笑に代えて私に向けた。
「それでも私達は信じ続けるの。裏切られる事も傷つけられる事も心のどこかで分かっていながら誰かを信じるの。恋をしたり尊敬したり同情したりしながら。私達は絶望しながら生きるの。そうしないと生きていけないの」
そう言って、彼女は突然波打ち際へ駆け出した。バシャバシャと波を踏み荒らす音がする。
それはまるで戦場の銃声だった。
日常世界のシェルショック。
愛しくて仕方ないと、誰かが叫んでいるようにも聞こえる。

「聞こえる」で。
No855-06/07 17:29
女/ミラージュ
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「いこうねっ?」
「はい?」
「じゃぁ、次の日曜にここにねっ!それじゃ」
「うん…いや、違っ」
私の言葉も届かず、彼女は颯爽と走り去った。
ただそこに残るのは、聞き返しただけな戸惑いの私。

私は昔から自己主張がない。
押しに弱く、手を上げて発言したこともないし、先頭に立つなどもってのほか。
成績表には決まって、「おとなしく、真面目」の先生の一言が書いてある。

彼女からの遊びの誘い。
別に嫌な訳ではない。
むしろ、嬉しい。
だからこそ嫌だった。
今回も彼女に先に言われたことが。

誰かを誘うことは勇気がいる。断られる恐怖。
拒絶は誰しもが嫌がるもの。
では、彼女に恐怖はないのだろうか?
毎回誘う彼女には。

考え事を抱えつつも、とりあえず私は決める。

次は私から誘おう。

それがきっと私から彼女への一歩になると信じて。


「信じる」で。
No854-06/04 00:15
女/二つの月
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眠る幼い我が子の髪を優しく撫でる。

柔らかい髪とぽちゃぽちゃのほっぺた。

目の前で小さい寝息を立てているのは産まれたばかりの我が娘。

あんなに辛かった陣痛でさえも我が子を産んだ証なのだと、あの辛さがあるからこそ目の前の小さな命がこんなにも愛しいのだろう。

何かよい夢でもみているのだろうか?不意に娘がニッコリと微笑む。
そんな仕草に私までユルユルと口元が緩んでいく。

私は寝ている娘に語り掛ける。

「こんな新米ママだけど…ママと一緒に成長していこうねっ?」

次は『いこうねっ?』でお願いします
No853-05/31 17:16
女/spring
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「よかったね、大事に至らずに済んで‥」
病院のベッドに横たわり、何本ものチューブに繋がれた僕に向かって、母は涙ながらに言った。

―大事に至らなかった?それは違う。例え僕の肉体は無事でも、僕の精神は無残にも切り裂かれ、未だ止めど無く血を流している。

そう言いたかったが、まだ麻酔が切れていないのだろう‥僕は口を動かすことが出来ず、只母を見つめる事しか出来なかった。否、目を閉じれば、助手席で身体中を深紅に染めた彼女が瞼の裏に浮かび上がりそうで。僕は怖くて目を閉じることが出来なかったのかもしれない。
母は続けて言った。
「助手席の女の子も無事だよ。アンタよりは重症だけど、命に別状はないって。よかったね、本当に、よかった‥」
母はまたハラハラと涙を流した。

僕はみるみるうちに身体中の傷が塞がっていく心地がしていた。包帯に血が滲み、傷が痛み出す。だけど、心は晴れ晴れとしていた。

君が回復したら、君の好きな鈴蘭をたくさん抱えて、君にプロポーズしよう。鈴蘭の花言葉‥君がいつも言っていたね。「幸せが戻ってくるんだ」って。僕は微笑んで、目を閉じた。今なら、静かに眠れそうな気がしていた。

次は「眠る」でお願いします。
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