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過ぎ行く日々、色褪せない想い
【学園物 官能小説】

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過ぎ行く日々、色褪せない想い-1

 高槻悠は、一人自室で窓の外を眺めていた。
 一般的男子高校生の部屋としては簡素なその部屋は、ベッドと勉強机に本棚タンスがあるだけの寂しいもの。
 フローリングの床はよく掃除がされており、ベッドカバーには鞄が作った皺があるていど。隅っこに丸いクッションが立てかけられている程度の殺風景な部屋。
「……」
 日が沈みだし、辺りは夜へと変化する。鈴虫の鳴声がそこらかしこから聞こえ出すと、昼間の暑さも忘れて秋を実感できる。
「!?」
 悠は窓の外に気付き、ブラインドを下ろす。角度を調整して、部屋から外の様子が見えるようにする。
 視線の先には向かいの家の門をくぐる女の子の姿があった。
 相模原高校の制服に身を包んだ女の子は、さらさらの黒髪を赤いゴムで結んだお下げの子。後姿を見る限りでは幼い印象がある。
 ――あ、こっち向いた。隠れないと。
 ポストの中を見る彼女にどきっとする悠。
 細く切れ長の目は整った睫が優雅さを醸し、細い眉がやや気の強そうなカーブを描くも、可愛らしい唇の桜色が少女のたおやかさを忘れない。
 驚いたときに目を丸く開くと、黒い瞳に吸い込まれそうな気持ちになる。
 顎に届く前髪をうるさそうにかきあげ、一緒に汗も拭う。
 健康的な肌は、少し前までは確かに白かったのに、夏の日差しがにくくなる。
 ――美琴……。
 悠は玄関に消える彼女を見つめ続けた後、ふぅとため息を漏らす。
 江成美琴。彼女が最近の悩みの種だ。
 彼女と悠はお向い同士の幼馴染で同い年の仲良しこよし。幼稚園の頃はいつも一緒に手を繋いで登園しており、何かというと「悠ちゃんのお嫁さんになる!」に「美琴ちゃんのお婿さんになる」と言い合っていた。
 それは小学校、中学校と成長する中で影を潜めたが、特別な仲良しという関係は続いていた。しかし、それも高校進学をきっかけに、ますます疎遠になる。
 どうして彼女と一緒の高校にいかなかったのだろうか?
 美琴の通う相模原高校は、ついこないだまでは女子高だったが、彼らの入試の年には既に共学となっていた。
 小学校の頃から剣道に勤しんできた彼は、中学の頃に県ベスト八になれた。そのこともあってか、運動部に力を入れている山陽高校を選んだ。
 つい最近共学になったばかりの女子高で、自分の力が活かせるはずがないと思ったからだ。
 それは確かにそうなのだが、問題はこの恋わずらい。

**――**

 最初の一年は何もなかった。
 いや、兆候はあった。
 入学当初の春は一緒にお花見に行き、進学という環境の変化のなかでのストレスを癒しあう仲であった。
 徐々に学校に慣れ始め、すれ違うことも増え始めた二人。それでも夏休みには一緒に海に行ったり、夏祭りの夜を過ごしたりもした。
 濃紺の布地に咲き誇る朝顔の浴衣。髪をアップにさせた彼女は、金魚を追いながら、その汗でしっとりとしたうなじを見せてくれた。
 嬉しそうに水ヨーヨーを弾く彼女は、彼の頬についた綿飴を摘むと「甘い」と言った。
 冬のある日、もこもこした白いダッフルコートを着た彼女と待ち合わせをした。
 客の一杯の映画館で見たラブストーリーに涙する彼女を照れ隠しでからかったのは失態。
 相模神社の石段を上って五円を放ったあと、彼は自分の心の中で固まりつつある気持ちに気付いていた。
 振袖姿に紅を引いていた彼女。

 ――桜色も良かったけれど……。
 ――何が?
 ――なんでもない。

 剣道の試合なら、一直線に突きだせる。なのに、彼女の笑顔、切れ長の目が目じりを上げ、窺うように覗き込まれたとき、彼は逃げた。
 彼女からも、気持ちからも……。

 四月を迎えた二人は、桜の下を共に歩かなかった。
 試合を控えていたことと、後輩の指導にあたったこと。
 それを言い訳に、彼は彼女を避けた。
 会いたいくせに、逃げた。
 その心の弱さを振り切るために、竹刀を振るった。


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