女嫌いが女になったら 93
他人の語る自分に対する誉め言葉という拷問に1時間もの間耐えた数世は、精神的にボロボロになっていた。まさに誉め殺し。
『あ、本題を忘れてしまう所でしたね。ではお話させていただきます。』
やっと本題か・・・ちょっとした小咄が1時間かかるなら、本題は何時間かかるってんだ・・・。数世がそんな事を考えていると、アルミは切り出す。
『数世さん、来週の土日、予定はおありですか?』
『来週の・・・土日?』
予想だにしない質問。数世はとりあえず首を横に振る。来週の土日は特に予定はない。
『そうですか。では、その土日、わたくしに下さいませんか?』
『え?』
ん?それは俺を誘ってるって訳か?一体何があるってんだ・・・。
疑問に思う数世だが、考えても仕方ないので、とりあえず首を縦に振る。
『でも、何があるんですか?』
数世の率直な質問に、アルミは優しげな表情のまま、さらりと答える。
『わたくしと旅行に行っていただきたかったのですよ。温泉旅館に、貴女とわたくしの二人で。』
『はあ!?』
温泉旅行?何で?馬鹿みたいに口をポカンと開く数世。しかし、今の数世はそんな様子すら可愛らしい。
『では、用件はそれだけですので。わたくしは失礼させていただきますね?突然お邪魔して申し訳ありませんでした。』
『あっ、いえっ・・・こちらこそお構い出来ませんで・・・。お、お送りしますっ。』
あせあせと玄関までアルミを送り、外に出る二人。そこには、アルミの送迎であろう、ランボルギーニディアボロのリムジンとセバスチャンが待ち構えていた(数世推定2億3千万)。
何だこりゃ?どこの世界の車だ!てか爺ってホントにいるんだ!?
突如現れた別世界に、可愛らしい瞳をぱちくりさせる数世。だが現実である。
『では来週の土曜の朝7時、お迎えに上がります。ご用意していただくものは特にございませんから、お待ちいただくだけで結構ですよ。』
『あ、はい。解りました。』
ただ呆然として答える事しか出来ない数世。その様子を見て、また優しげに微笑むアルミ。
『では、ご機嫌よう。また学校で。』
アルミはディアボロに乗り込み、セバスチャンも数世に一礼し、彼の運転でディアボロは嵐のように走り去って行った。
ボーッと見送る数世。その時、数世の父親が爆音と共にジャガータイプS 4.2V8エアロに乗って帰って来た。
『おお、数世。帰ってたのか。お帰り。』
『・・・ただいま。お父さんもお帰り。』
数世はそれだけ言うと、スーッと家の中に消えて行った。
『どうしたんだ数世は?いつもはあんなに助手席に乗りたがるのに・・・。』
数世はちょっとリッチな父親のジャガーがお気に入りだった。しかし、ディアボロのリムジンを目にした今、ジャガーも安っぽい外車にしか見えなかったのだ。
自室のベッドで寝転ぶ数世。天井を見つめ、これからを考える。一体何度目だろう。そして何も浮かばないのも、いつもの事だった。・・・また明日も学校だ。