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枝の花を散らすまで
官能リレー小説 - 時代物

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枝の花を散らすまで 1

さんさんと日が昇る空の下、蝉が騒がしい。
遥か彼方に見える山々と挟まれた盆地に広がる田園は夏の日差しを浴びて煌びやかに瞬き、吹き下ろす風に揺らいで光の波を打ち寄せる。
青々と茂る広大な田園を眼下に、峠に通る畦道を三度笠の旅人が行く。
彼はまるで鉄塊の如き大太刀を背負い、腰元には小ぶりな脇差を携えている。
旅装に身を包む彼の身体は筋骨隆々で、その身に纏う雰囲気も尋常ではない。
「……ふぅ」
男は一つ息をつくと、手近にあった木陰へと入り込んだ。そしてその場にどっかりと胡坐をかいた。
男の視線は前方を見据えたまま微動だにしない。
その視線の先には一台の駕篭が走っていた。それは見るからに立派な造りをしている。漆塗りされた車体は陽光を受けて艶やかな光沢を放ち、金箔で描かれた装飾は眩いばかりである。
だが、運び手は褌一丁だけの屈強な男二人である。立派な駕篭であれば、護衛が大勢付いていたり運び手もそれなりに身形を整えていたりするものだが、この駕篭に限って言えばそのような様子は一切見られない。
むしろ粗末と言ってもいいだろう。
駕篭と運び手があまりに不釣り合いなのだ。
そんな奇妙な駕篭が男の方に向かってきている。男は一瞬どきりとしたが、運び手二人は男の事は気にも留めず何事もなかったかのように通り過ぎていった。
男は胸を撫で下ろし、走り去っていく駕篭を見た。
すると――。
『あぁん!』
駕篭の中から女の悩ましい声が漏れ聞こえてきたのだ。
それを聞いた瞬間、旅人の男…綾崎梅次郎は全身の血流が激しく脈打つのを感じた。
先程まで静寂に包まれた空間だった筈なのに、今は女の声だけが響いている。その淫靡な声は運び手の男二人にも聞こえていた。
「何か聞こえないか?」
前の運び手が後ろの運び手に声をかける。
「ああ、聞こえるぞ…まるで女が喘いでいるような…」
後ろの運び手は顔を真っ赤にしてそう答えた。二人の会話を聞きながら、梅次郎は再び耳を澄ませた。

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