天才作家の性 1
菊澤冬樹は大学在学中に著名な文学賞を受賞し文学界に颯爽と現れた新たな天才作家と持て囃された。
ただ、彼自身はそんな世間の反応を冷ややかに見ていた。
数々の賞や称賛の声、作品の売り上げは彼にとって興味のあるものではない。
そんな彼も迷いはあった。普通に企業に勤めながら作家活動をするか、作家という道にこだわるか。
最終的には『俺は俺のやりたいことだけをやる』という意思のもと、プロの作家として生きる道を選んだ。
そんな冬樹にも恋人が出来た。
文学部で日本文学を専攻する女子大生の進藤美雨。黒髪の美しい美少女はかなりの読書家であり冬樹に文学的助言も頻繁に行う。冬樹も彼女の助言から発想を得ることが何度もあった。何より自身の創作意欲を盛り立てる一番の原動力になった。
いまや美雨は冬樹のアシスタント編集者でもあり大切なパートナーであった。
2人の出会いはある雨の日、昼下がりの古書店の中だった。
特に書を買うあてもなくブラブラと書棚の間を行き来し気になったハードカバーを手にする冬樹。
「その作家の作品、私も大好きなんです」
ふと声をかけてきたのが美雨だった。それが始まり。
文学の話で意気投合し近くの喫茶店へ足を運ぶとその話は3時間以上にもなった。たったのコーヒー一杯でこれだけ話が進んだのは冬樹にとっても初めてのことだった。
「俺もしがない作家の端くれなんだが、興味があったら部屋に来ないか?」
「ふふふ、冬樹さんって、すごく有名な方なのに」
冬樹は真新しいビルの4階に自宅兼事務所を構えていた。
スペースは広いが一人暮らし。
「素敵ですね」
一目見て気に入った美雨はそれ以来、通い妻となる。
美雨は冬樹に多大なサポートを尽くす。製作に没頭すると冬樹は外出はもちろん食事も風呂も睡眠すらも疎かになってしまう。そんな冬樹の清涼剤になったのが美雨である。
「製作も大事ですが、一番大事なのは冬樹さんのお身体ですよ」
そんな2人はすぐに男女の関係に発展する。
深く濃厚な営みは冬樹のモチベーションにもなり、また製作に関わる発想ももたらした。
美雨にとっては冬樹が初めての男性ではなかったが、冬樹にはそれはどうでも良いことであった。
黒髪の清楚な美少女。流行のファッションの下にはグラビアアイドルにも負けない豊満な身体。美雨はすべてにおいて冬樹を魅了する女性であった。その性技もまた…
「事実は小説よりも奇なり、と言います。私の人生も、冬樹さんからしたら信じられないものかもしれません」
美雨は幼い頃、父を事故で亡くした。
数年後母が新たに交際を始めた相手の男は気性が荒く、美雨にも容赦なく手を挙げた。そして性的な行為にも及んだのだ。