メイドさんに不可能はない 1
何を目的に生きているかさえわからなかった。
その日が来るまでは。
母はある日を境に家に帰ってこなくなった。
もともと派手で遊び好きな母は普段からロクに家事もせず昼はパチスロ、夜は歓楽街へ遊び歩き、僕の知らない間に家を出入りしていた。そのうち男ができたのか帰ってこない日が多くなりついに全く帰らなくなった。
父は仕事に全力を尽くし過ぎた。
残業と休日出勤の連続、母同様いつ家に帰っているのかわからない状態が続いた。たまに姿を見せて、心配してるんだから、と声をかけても返事はそっけなかった。そんな日が続いて、ついに父は………これ以上言うのは止そう。
いつからか、僕は孤独になった。
家族はいない。学校でも日陰者。
孤独になれたからって、いつまでもそんな人生は嫌だと思っていた。
しかし僕の力じゃどうにもできない。
半ばあきらめていた。何もかもすべて。
ある日、興味深い広告を目にした。
「派遣メイドサービス」
あなたのもとにメイドさんを派遣します。扱い方も契約期間もあなた様にすべてお任せ、お客様のご希望に沿った条件でメイドさんをお雇いください!
……なんて書かれていた。
本当なのだろうか。胡散臭いと思った。でも、いつまでも孤独ではいたくない僕は……ダメもとで電話してみた。
『お電話ありがとうございます。派遣メイドサービス・メイドリームです』
柔らかな女性の声だった。
「あ、あの…メイドさん、派遣してもらえるんですか?」
『はい。お名前とご住所を教えていただけますでしょうか?』
「え、ええと…柿園皓人です……住所は………」
『年齢は』
「16です」
『希望するタイプはございますか?』
「あまり年上過ぎなければ……あと、優しい方で…」
『かしこまりました。経済状況について伺ってもよろしいでしょうか?』
「両親はいません……一人暮らしです。お金も…」
『大丈夫ですよ。こちらから給与を払えるシステムにいたします。派遣時期はいつごろからにいたしますか?明日からでも可能ですよ』
「そ、それでしたら……明日で…!」
『かしこまりました。では、明日の12時にメイドを派遣いたします』
「あ、ありがとうございます!」
トントン拍子で決まってしまった!
期待と不安うずまく中、僕はその時を待った…
翌日。
土曜日、学校は休みだ。
休みなのにガラでもなく早起きして、朝から一歩も外に出ず、僕はその時を待った。
そして――
ピンポーン
12時になると同時に、コツコツという靴の音が響き、家のインターホンが鳴った。
「はいっ…」
いろいろな思いが湧く。玄関に向かって駆けた。
「柿園皓人様ですね?派遣メイドの橋詰莉菜と申します。今日からよろしくお願いいたします、ご主人様」
可愛らしい顔立ち。優しそうな笑顔。僕の思い描いていた理想のメイドさんが、ぺこりと頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします。あ、あの、こんな汚い家で、冴えない男のメイドなんかで、なんというか、すみません」
メイドさん―いや、これからは莉菜さんと呼ぼう―は、これまたペコペコ頭を下げる僕に、にこやかに言った。
「メイドの仕事はご主人様の生活を豊かにすることです。私がすべて綺麗にして見せますよ!」
「えっ、えっ……あぁ」
「では、まずは、お部屋のお掃除からすればよろしいですか?」
黒のゴシックメイド服姿の莉菜さんはふんすっ、と気合を入れながら腕を撫す。