貧乏少女を幸せにする方法 1
ある人から頼まれ、借金の取立てをすることになった。
製造業の盛んだったある地区。
しかし折からの不況と原材料費の高騰が続き操業を停止する工場が増えてきたと伝え聞く。
今回の相手もそのひとつだ。
人も車もなくなった空っぽの工場。
その隣に立つ年期の入った一軒家。
インターホンはないので仕方なくドアをノックする。
「水越さーん、いるんですかー」
呼びかけても反応はない。
取立てが追ってくる前に家族諸共逃げたってパターンだろう。
リアルで取立てをするのはこれが初めてなんだけど、フィクションではそういうのってよくあるからな。
「仕方ないな」
ドアノブを捻ってみるけど鍵がかかっているので開かない。
結構ガタが来ていそうなので大の男が一発蹴れば壊れそうだ、やるしかない。
高校までサッカー部だったんだ、キック力にはこれでも自信あるんだよね。
「待ってください!」
「え?」
いざ取り掛かろうとしたそのとき、ドアの向こうから声がする。
…幼そうな女の子の声だった。
…家主の娘さんか。
住所と家主の名前だけ教えてもらったので、家族構成なんて知らなかった。
「お父さんかお母さんはいるのかい?」
「…いません」
「…君一人でここに住んでるの?」
「私と、妹が2人…あと、従業員さんの娘さんと、4人で…」
親がいなくて、子供だけで暮らすってどういうことだろう。
首を傾げるしかない。
「詳しい話が聞きたいし、君たちにも言っておきたいことがある…鍵を開けてくれるかい?」
「は、はい」
声の主である女の子が鍵を開けてくれた。
ドアを開けると、そこに立つのは制服姿の少女。
中学生か高校生くらいだろうか。可愛らしい顔立ちの子だ。
「やあどうも」
なるべく悪い印象は与えたくない。
幸い見た目に関しては友人知人からは『爽やか系のイケメン』と評される男なので、目の前のこの子や妹さんたちにも怖い人ではなく普通のお兄さんとして見てもらう必要がある。
「あ、あの…」
「僕は岩川肇っていうんだ、よろしく」
「あ、えと…水越睦月です…」
「睦月ちゃんか、中学生?」
「高校1年生です…」
その睦月ちゃんの後につく形で、奥の部屋に案内される。