不思議なノート 1
「いらっしゃい…おぉ、久しぶりだねぇ、坊ちゃん」
「ばあちゃんも相変わらず元気そうだな」
商店街の端にある文房具屋。
この店を切り盛りしてるのは御年90を越えたばあちゃんだ。
しかしこのばあちゃん、歳をまったく感じない。腰が少し曲がったくらいで言葉もはきはきしてるし元気そのものだ。
俺が幼稚園児の頃からこの店をやってる…俺の母さんが学生時代の頃からこの店はあったらしい。なんだかすごい。
「坊ちゃんはいくつになったんじゃ?」
「17.来年大学受験だな」
「ほぉ…大きくなったなぁ。ついこの間小学校に上がったばかりかと」
「もう何年前の話だよ」
ばあちゃんと話しながら買いたいものを探し、手に取る。
文房具類はもちろん、近所の小中学校のワイシャツや体操服も売ってるこの店は、ここら辺で育った人間は誰もがお世話になっているといっても過言ではない。
もっとも、駄菓子を売り始めたり最近じゃトレーディングカードまでそろえたり、もはや文房具屋の域を超えちゃってカオスな店になりだしてるんだけど。
ばあちゃんにノートとボールペンを渡してお会計。
「…おぉ、そうだ…せっかくじゃから坊ちゃんにサービスじゃ、サービス」
「いや、そんなことしてくれなくても」
「久々じゃからな、ワシからのプレゼントじゃと思って持ってきなさい」
ばあちゃんはそう言って、ノートを一冊追加して袋に入れる。
「この前1冊だけ間違って入ってたんじゃよ…発注してないものがな」
「大丈夫なのか?」
「まあ、持って行きなさい」
「ああ…」
「特別なノートじゃよ。あったかいかどうかは知らんがな」
「ノートがあったかくてどうするんだよ」
…ってか、ばあちゃん、そのネタ知ってんのかよ。こりゃまだまだ長生きしそうだな。
そのノートが、とんでもないものと知ったのは、家に帰ってからだった。
家に帰って袋の中身を出す。
ばあちゃんがサービスとのたまってくれたノート…表紙は真っ黒。文字はない。
「…普通だな。まあ使う分には申し分ない」
表紙から1ページ開く…
「っておい!なんか書いてあるぞ!誰か落書きしたのか?」
おいおい、ばあちゃん…あれ?
もう一度、その書かれた部分を確認する。
『このノートに名前を書かれた者は、名前の書いた者の思い通りになる
ただし、ノートの所有者、つまり書いた者が男、名前を書かれた者が女の場合に限定する
対象者の名前だけでは効果はない 行動まで明記すること』
…なんだこれは
もしかしてこれ、すごいものなんじゃ…
…ばあちゃんはこれ、知ってて俺にくれたのか?
いや、そんなわけないか…