強運天使が舞い降りた!? 1
現実は辛い。厳しい。切ない。
そう思っていた頃が僕にもありました。
ある日の競馬場。
いつもよりちょっと多めの軍資金を手に乗り込んだ、勝負の日曜日。
夢と希望の冒険の始まり(?)である。
…だがしかし
現実はそううまくいくもんではない。
朝一で躓いたが最後、その後も買う馬券買う馬券掠りもせず、しこたま負け続け、連敗街道まっしぐら。
負の連鎖は簡単には止められず、3場メインレースも惨敗。
キャ○テン渡辺も真っ青の負けっぷりだ。
掛け金はそれに乗じて減っていき、希望を託して臨んだ最終レースも2つ終わってボロ負け。
もう後がない。
財布の中にあった大量の諭吉さんはどこかに行かれてしまいました。
今手元にあるのは野口英世さんが2人。
これだけあるんだからいいだろって?朝はホントにたくさんあったんですって。
「おにーさーん」
?
何か競馬場にふさわしくない可愛らしい声が。
「そこの黒ジャケットにジーパンのおにいさーん」
…って僕ですか?
声の先に視線を向ける。
そこには、このフロアには場違いな美少女が座っていた。
「何ですか、僕は今最後の勝負を」
「おにーさん、今日負けてるでしょ」
「いきなり失礼なこと言うね」
「で、どーなの?」
天使のような笑顔でキツイね君は。
「負けなんてもんじゃないよ、今日は」
「一回でも当たった?」
「全然」
言葉の一つ一つに棘があるね。
「たぶん、普通にやったら最後も当たらないよ」
「失礼だなホントにお前…」
美少女じゃなかったらとっくにぶん殴ってるぞ。
「どうしても当てたいなら、次のレース、8番のお馬さんを絶対買うといいよ」
唐突に何を言うんだ君は。
「8番…?」
しかし、最後だけでも当てたい、藁をも縋る思いの僕は、彼女が言うその8番の馬を探す…
「あのなあ、冗談にもほどがあるぞ」
「本当だよ」
その8番の馬、新聞紙上は無印。
それだけじゃない、近3走連続でシンガリ負け。
調教もさして良くなければ厩舎コメントも歯切れが悪い。
どこからどう見ても買える要素がない。
…まあ、しいて言えば今回は▲印の騎手が乗ることくらいか。
(デビュー3年以内、通算勝利30勝未満の若手。斤量は3キロ軽くなる)
しかしその彼も、このレースの騎手を見ても買いたいという魅力はない…
…でも、今日散々負けてきて自分の予想に自信が揺らぎかけていたので、彼女がそこまで自信があるなら乗ってやってもいいか?
「ほらほら、騙されたと思って買ってみてくださいよ〜」
彼女は両腕を伸ばして僕の背中を押す。
「自分で言うかよ…」
帰りの電車賃を残して、単勝に500円、複勝に1000円賭けてみる…