若手女優は身体を張る 1
所属タレント数人という小さな芸能事務所。
一番年上でも23歳、下は中学生が数名いる平均年齢が若いモデルやグラビアアイドルがメインの活動になっていた。
そこにー
「ユキちゃん、ドラマの出演オファーが来たわ!」
「ホントですか!?」
最年長23歳、宇佐美ユキに事務員の濱野瑛美が声を弾ませて言う。
この事務所始まって以来の出来事だった。
「深夜帯の作品で、ほんのちょい役なんだけどね…それでもうちの事務所始まって以来だから、サクラさんも嬉しくて二つ返事で受け入れちゃって」
「私も、凄く嬉しいです!」
グラビアアイドルとして細々と活動していた牧田サクラが立ち上げた小さな事務所、「エムエスエンタテイメント」。
所属タレントがいつも仲良くレッスンに取り組む雰囲気の良い事務所である。
そんな事務所始まって以来の大きな出来事が宇佐美ユキへのオファーであった。
「へぇ、夜道で襲われる女子大生…うん、それだけでも、十分すぎる。ドラマに名前付きの役で出られるんだもんねっ」
ドラマの内容と役柄も詳細を見ながら、ユキはよしっ、と意気込んだ。
撮影日当日。
ユキの登場シーンはドラマの冒頭で、設定では深夜のため撮影時間も真夜中となる。
それでも送迎には社長であるサクラが自分から買って出るなど事務所始まって以来の一大事に皆色めきだっていた。
「サクラさん、わざわざありがとうございます」
「ユキちゃんとエムエスにとっての記念すべき門出の日だから、これくらいどうってことないわよ」
サクラはユキの背中を押す。
ユキは撮影現場にやってきた監督の岸川忠のもとに赴き、挨拶をし深々と頭を下げる。
「今回はチャンスをいただき、本当にありがとうございます!」
「うむ」
岸川はユキの身体をじっくり見回した。
「あのね、君は現場を分かってないと思うけど、撮影と違ってちょっとポーズするだけとは違うから。頭から爪先まで演じて欲しい」
「はい、がんばります」
「適当に倒れてキャーとか言ってたら終わりとかじゃない。AVみたいに大げさではないけど、パニックや抵抗など本気で挑んでくれ。長めに撮って象徴的なシーンを、こちらでピックアップするから」
「分かりました」
やはりグラビアとは熱気が違う。
岸川の言うことは一言一言厳しい。
「君をレイプするのは注目度急上昇中の若手俳優、沖松優斗だ。冒頭の重要なシーンだから気を引き締めてほしい」
「はい」
相手が将来有望な若手俳優とはまたアピールしがいのある機会だ。ユキの気持ちがさらに昂る。
「いろいろうるさいようだけど、アドバイスも出すよ。コツはどこまで表情を変えるかなんだ。君は演技に慣れてないと思うから、実際に入れられてもらうよ。特に、入った瞬間を意識して欲しい」
「はい…って、え?」
「だから、本当に無理やり入れられるんだ。刺激無しでリアクションできないだろ?」