幼き頃より仕えてきた乳母の言葉に淀の方は満足げにうなずく。そして侍女の方へ向き直った。
「これで分かったであろう、髪を落とすと申しても、この頭は丸めはせぬゆえ安堵いたすがよい。霊前に丸坊主の女子ばかりでは、亡き太閤殿下も寂しゅう思し召されようからな」
淀の方はおのが胸にかかる長い鬢を愛しげに握り締めた。烏の濡れ羽色とも言うべき深みのある黒さが、白絹の寝巻きに鮮やかに映えている。
「とは言え、所詮は殿下への愛欲を断ち切れぬゆえのこと。罪深き女子と笑うてくりゃれ」
そう言いながら目を細め、悪戯っぽく微笑みかけた。
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