中西恭一は、しぶしぶそのボロアパートに住むはめになった。東京の端に位置するその建物は、家賃が安いこと以外に取り柄はない。むしろ、薄汚れた壁や黒ずんだ床、ひび割れた窓から漏れる隙間風に、住む前から不吉なものを感じていた。それでも他に選択肢がない恭一は、背に腹は代えられず荷物を運び入れたのだ。
初めて部屋に足を踏み入れたその夜から、奇妙な気配が漂っていた。どこか遠くからかすかに聞こえる湿った「ザリ…ザリ…」という音。
時折、壁の中で何かが蠢いているかのような気配を感じるたびに、恭一は不安に包まれた。気のせいだと自分に言い聞かせようとするが、音は日を追うごとに確実に近づいてくる。
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