交差 38
「カムフラージュで女の子と付き合ったこともあるんですけど…やっぱり付き合っていくとセックスは必然ですからね…」
最近はセックスレスのカップルもいるみたいだけど、それでも1度も無いってことはないのかもしれないな…
「カミングアウトはしないのか?…」
そういったことに世の中は寛容になってきてるっていうし…
「なかなか勇気が持てません…奇異な目で見られることは分かり切ってますしね…」
差別とはいかなくても、距離はきっと置かれるだろうな…
「直人さんだけには言っちゃいましたけどね…」
それゃ俺も同類なんだろうし…
「俺もよかったよ…伊藤君と知り合えて…」
話せたことで気持ちが少し軽くなった…
「僕の方こそです…社内に直人さんがいてくれると思うだけで…励みになりますから…」
白い肌をポッと高揚させる伊藤君…
男にしておくには勿体ない、綺麗な顔をしている…
「お互い……頑張ろ………ぅ!!」
思いがけず唇を塞がれる…
伊藤君の唇にだ……
「ちょっ……ちょっと待ってぇよ!!」
焦り以外の何ものでもない…
俺にとって男とキスするなんてことは考えてもいないことだ…
「ごめんなさい、いきなり…嬉しかったんで…つい」
“つい”キスするかよ(汗)…
ここは海外じゃないんだから…
「大きな声出してこっちこそ悪かったけど…こういうのはちょっと…(汗)」
露骨に嫌な顔をする訳にもいかない…
「よかったぁ…出てけ!って言われないで…」
まぁちょっとはそう思はない訳ではないんだけど…
「俺は室長以外の人とは駄目なんだ…だから伊藤君とも友達以上のことをする気はないんだな…」
ホントはそれで感じてしまって…その道に目覚めてしまうのが怖い…
「はい分かってます…でも直人さんに“友達”って言って貰えて嬉しいです…」
モジモジと俯きながら、それでもハニカムように微笑む伊藤君…
「伊藤君は俺にとっては友達以上の存分だぜ…」
横から肩を抱き、頭をトントンと撫でる…
「室長さんが…羨ましいです…」
凭れ掛かり、頭を俺の肩に乗せてくる伊藤君…
微かに震えるその肩を…俺は強く抱き締めてやる…
柑橘系のコロンの香り…
伊藤君らしい爽やかな匂いだ…
考えてみると社長以外の人と、こんなに間近に密着したのは久しぶりのことだ…
「温かいな…」
その温もりが堪らなく心地好いい…
「直人さんの心臓の音が聞こえてきます…」
確かにドキドキしている…初めて女の子と身体を重ねた時みたいに…
「こういうの…そんな慣れていないから…」
30にしては女との経験人数もそうは多くない…
「嫌じゃないんですか?…男の僕と…」
そう言われると戸惑う…
でも嫌悪感は全く無い…
「この位なら大丈夫さ…さっきはいきなりだったから…ちょっと驚いたんだ…」
何事も心の準備ってもんが必要だから…
「無理しないで下さい…僕はもう充分ですから…」
頭を上げ俺から離れようとする伊藤君…
そんな伊藤君の顎を取り、俺は自ら唇を合わせる…
数秒間のキス…
互いに唇を動かすことも、況しては舌を挿れることもない…まるで思春期の少年が初めてするファーストキスみたいな淡いキスだ…
「あ、ありがとうございます…」
唇を離すなりそんなことを言う伊藤君…
「別に、俺がしたくてヤったんだぜ…」
自分の言った台詞にちょっと照れる…
「いい思い出になりますから…」
伊藤君の為に俺が無理してキスしたと思ってんだな…
「ホントに伊藤君にキスしたいと思ったから…したんだって」
愛しさは確かに芽生えたし…