異端児カラス-8
……ヤマトとヤナが殴り合いのケンカを―――。
そのケンカの原因が私であることは間違いない。
あの時ヤナに求められ、彼の腕に堕ちてしまいそうになった自分を思い出して、私は胸が痛くなった。
ヤマトは雪乃と何もなかったのに、私はヤマトを裏切ろうとしていたのだ。
「……ヤマト……ごめん……」
「謝らんでええ……ヤナにも言うたけど……原因作ったんは俺やし……相原の気持ちは、ようわかったから……。さっき何回も言うてくれたもんな……『ヤマトが好き』って」
そう言えばあの絶叫を聞かれていたんだった………。
恥ずかしさで、顔がみるみる赤くなるのが自分でもわかる。
それと同時に、ずっと言えなかった私の気持ちがヤマトに初めて伝わったことが嬉しくもあった。
ヤマトは落ち着いた表情で優しく私を見下ろしている。
以前はヤナと目を合わせただけでヤキモチをやいて怒っていたのに、今日のヤマトはあの時とは別人のようだ。
「心配すんな……ケンカしたんは……俺とヤナの問題や……それに……もう片はついたし」
ヤマトが私の不安を消そうとするようにゆっくり髪を撫でてくれた。
子供っぽくて嫉妬深かったヤマトの面影はどこにもなかった。
今までみんながどんなにヤマトを頼もしいと言っても、私は嘘っぽいような気がしていた。
だけど今は誰よりも、目の前のヤマトが頼もしく見える。
ごめんねヤマト――。
私もう迷わない。
ちゃんと目の前のあなただけを信じるよ。
「ヤナ、言うてたで………自分と相原は似てるから、相原が幸せになってくれたら自分も自信がもてると思うって……」
ヤナが……そんなことを……。
いかにもヤナらしい、どこまでも優しい言葉に胸が温かくなった。
そしてヤナのその言葉で、二人の友情は大丈夫なのだということが伝わってきて、私は心から安堵した。
二人の間にどんな会話が交わされたか、私にはわからない。
けれど、本気で腹を立てた時には殴り合うことが出来る男の子のケンカが、少し羨ましかった。
今頃、ヤナの顔にも同じような痣が出来ているに違いない。
本来ならば私も殴られて当然なのに……二人はお互い殴り合うことで、身体を張って私を守ってくれたのだ。
「せやから……ヤナのためにも……俺は絶対、相原を幸せにする……」
ヤマト―――
私もあなたを――そしてヤナを
幸せにしたい――。
ヤマトの唇がゆっくり私の唇に重なる。
久しぶりのキスは、少し血の味がした。
口の端の切れた部分を舌でペロリと舐めると、ヤマトが笑いながらちょっと痛そうに顔を歪めた。
「……っ……痛いやん……」
その色っぽい表情に胸がドキドキする。