異端児カラス-6
ヤナも、ヤマトも、雪乃も、みんな消せない過去を背負って生きている。
「雪乃……もう俺にはつきまとわへんって……約束してくれた。俺みたいな腰抜けには興味がなくなったって………。それも雪乃なりの精一杯の強がりやって今ならわかる……。せやけど、俺はアイツにただ謝ることしかしてやれへん。俺が好きなんは相原だけやし―――」
心臓が痛いくらいにドキッと高鳴った。
ヤマトが口にする「好き」という二文字だけで、私の身体中の血液はあっという間に沸騰してしまう。
「勝手やとは思うけど……それがほんとの俺の気持ちや。
……俺にとっては過去のことより、目のお前のことが大事やねん……」
「……ヤマト……」
目頭がカアッと熱くなるのがわかった。
「目の前のお前」―――。
同じような言葉を聞いたことがある。
私がヤマトと雪乃の関係を疑って不安になっていた時、ヤナが言ってくれたのだ。
「目の前のアイツを信じてやれ」―――と。
ヤナは、私とヤマトにとって何が一番大切なことなのか、ちゃんと始めから気付いていたのだ。
「……俺と出会う前に、お前に何があったか……全部知ることなんか出来へん……」
ヤマトが私を抱く手に、グッと力がこもる。
「……過去のお前を『許す』とか『許さへん』とか……そんなこと俺に言う権利ないやろ……でも俺は、今目の前にいる相原のことが好きやねん……それだけではあかんか?」
「目の前の私のことが好き」
今、そう言ってくれたの……?
「つらい事とか、悲しいこととか……あったと思うけど……
それがあったからこそ、今の相原がいて、今の相原やからこそ……俺は好きになったんやで」
そうだったよね―――。
ヤマトはフラミンゴの群れの中で迷子になっていた私を見つけてくれた。
それは私が異端児のカラスだったから―――。
ヤマトの言葉を噛み締めるように、私はじっと目を閉じる。
ゆっくりと心が澄み渡っていくような気がした。
私は今まで自分の過去を消すことばかり考えていたけれど、その過去を消してしまったら、今の自分も消えてしまうなんて考えたことがなかった。
私はいい事ばかり経験して「今の私」になったわけじゃない。
むしろつらい事のほうが「今の私」にとっては大切な出来事だったと言えるのかもしれない。