裏切り-2
相原……。
頼むからそんな無防備に俺に近付くな……。
その顔を見ているだけで、その声を聞くだけで、俺の魂はお前を求めて激しく疼いてしまう―――。
だから……お前がヤマトと付き合い出したと聞いてから、俺は今までに何回もサインを送ってきたはずだ………。
『オレニ、チカヅクナ』
って―――。
それなのになんで俺んとこへ来るんだよ―――。
マジでもう……どうなっても知らねぇからな―――。
「………ヤマトなんか……やめちまえよ……」
俺は親切な友人の仮面の下から、薄汚い欲望にまみれた言葉を吐いた。
相原がゆっくり顔をあげる。
俺の言葉の真意を探るように、相原の真っ直ぐな視線が俺の心の奥を覗き込んだ。
お前に見透かされただろうか。
俺の偽善を。
本当は、どんな汚い手を使ってでもお前をヤマトから奪い取りたいという、俺の醜い本心を。
―――そうだよ相原。
俺はヤマトなんかよりずっと前からお前を好きだった……。
冷めた視線。
感情を封じ込めた唇。
その孤独な影に
俺の本能は欲情する。
お前の孤独が
俺にはわかる。
お前は俺と同じ匂いがする。
お前の存在そのものが、俺自身の深い孤独を癒してくれる。
親父の家を出ようと決めた時、真っ先にこのマンションが頭に浮かんだ。
その時の俺には、相原を手に入れたいとか、自分のモノにしたいとか、そんな気持ちは全くなかった。
ただ、相原の近くに寄り添って、その存在を感じていたかっただけなんだ。
相原が誰か特定の男のモノになってしまうなんて、思ってもみなかったから――。
しかも……
なんでよりによって
ヤマトなんだよ―――。
俺の中で何かが――ぷつん――と、音をたてて切れた。
「……もう……泣くな……」
搾り出すように言って、俺は相原の身体を強く抱き寄せた。
相原の背後で玄関の重い扉がバタン――と閉まって、急に恐ろしいほどの静寂が室内を支配した。
その異様な静けさが、相原と本当に『二人っきり』になったということを俺に強く実感させる。
―――ヤマト。
卑怯な手を使ってもいいか?
俺はセックスに意味なんてないと思っている。
だけど、セックスで相原を振り向かせることができるんなら、俺はそれを利用したっていいと思ってるんだ――。