真実-2
それ以来、俺が新しい女と付き合おうとする度に、雪乃は徹底的に相手のことを調べあげ、あらゆる手段を使ってことごとくその交際を妨害してきた。
彼女には、ちょっと頼めば何でもいうことをきく取り巻き連中がゴロゴロいるのだ。
その人脈をフルに生かして、雪乃は卒業までの半年間を、ほとんど俺の恋愛を妨害するためだけに費やした。
女のプライドというのは俺が想像する以上に厄介なものらしい。
雪乃は、俺が自分より幸せになることが絶対に許せなかったのだろうと思う。
俺自身、その頃はテキトーな恋愛しかしていなかったから、交際を妨害されてもさほど腹がたたなかったし、勘違いして俺にのめり込んでくる女を廃除してくれる雪乃を、正直便利だと思った時もあった。
―――でも今はちゃうねん。
俺は相原に出会って変わったんや。
相原だけは絶対に失うわけにはいかへん。
あの花火大会の夜、雪乃にばったり出くわした時、俺は相原のことを彼女だと知られたくなかった。
雪乃の執念深さは俺が一番よく知っている。
だが俺の曖昧な態度は、結局相原を傷つけ、雪乃にも余計な執着心を抱かせてしまった。
雪乃は、相原と俺の本当の関係を調べるために、俺のポケットからケータイを抜きとったのだ。
ケータイのない不便な数日を、俺はイライラしながら過ごした。
そうしている間に、俺のケータイの中の全てのメールとアドレスが洗いざらいチェックされ、相原がどこの誰なのか細かく調べあげられたに違いないのだ。
そして昨日、雪乃は俺にケータイを返したあと、悪魔のような微笑みを浮かべながらこう言ったのだ。
「後輩のコに聞いたんだけど、この前花火で会った相原って子、ヤマトの新しい彼女なんだってね?」
何が「後輩に聞いた」……やねん。俺のケータイ隅々まで調べよったくせに……。
ホンマ白々しい。まじで腹立つわ。
雪乃のとぼけた態度に、頭にカッと血がのぼる。
しかし次の瞬間、雪乃の口から出た言葉を聞いて、俺の背筋は一気に冷たくなった。
「あのコのことで、ちょっと面白い噂を聞いたんだけど」
『――――面白い噂?』
雪乃がこういうもってまわった言い方をする時は、相当信憑性のある、しかも効果的な情報を手に入れているということだ。
この女……
何を企んでんねん……。
仮面のような完璧なメイクを施した雪乃の顔が、急に不気味に感じられた。
自分のプライドのためならば、他人を傷つけることになんのためらいも持たない残酷な女。
雪乃をこれほど恐ろしいと思ったことは、かつて一度もなかった。
―――雪乃やめてくれ。
俺自身はどんな仕打ちを受けてもかまへん。
それだけのことを雪乃にも他の女の子にもしてきたという自覚がある。
せやけど、俺のせいで相原が悲しい思いをするのだけは絶対に堪えられへんねん。
俺の過去のええ加減な恋愛のツケが、まさかこんな形でまわってくるとは思いもよらへんかった………。
俺は相原を守ったらなあかんのに―――。
何やってんねやろ。
「……噂って何やねん」
自分でも情けないくらい声が震えている。
「まぁ、まだ確認とってるところだから………明日また連絡するわね」
動揺する俺の顔を見て手応えを感じたらしく、雪乃は満足気な表情で去っていった。