烏の雌雄-6
「…………俺、帰るわ」
不意にヤナが立ち上がった。
何かを意識的に断ち切ろうとするような唐突な感じだった。
急に慌てたように散乱した食料品をコンビニの袋にほうり込むヤナ。
そして下足箱の上のメモ帳に、サラサラと何かを書き込んで私に手渡した。
「またあいつが来たら、すぐ電話して。俺805号室だから」
メモにはケータイの番号が書かれている。
そういえばずっと同じクラスだったのに、私はヤナの電話番号すらしらなかった。
夢から覚めたばかりのようにまだ頭がぼんやりしている。
私は今、何を考えていたんだろう―――。
「おやすみ――」
もういつものような淡々としたヤナに戻っていた。
エレベーターホールにむかう後ろ姿は、塒(ねぐら)に帰る孤独なカラスのように見えた。
END