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異端児カラス
【学園物 官能小説】

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塒(ねぐら)-2

――――しばしの沈黙。



な…なんやねん。この間は?
ひょっとして俺、ひかれてんのか?



俺は、あまり深く考えないでここまで来てしまったことを急に後悔した。



自分が嬉しければ相原も嬉しいやろうというのは、俺の勝手な思い込みやったんかもしれん……。



『…………ちょっと待ってて』



一貫した低いテンションのまま電話は切れた。



くっそー。なんやねん。
なんかわからんけど腹立つわぁ。



カンカンカン……というサンダルのヒールの音が聞こえて、マンションの玄関ホールから相原が現れた。


ちょうど風呂上がりだったらしく、濡れた髪を頭の後ろで無造作にまとめている。


グレーのスウェットの上下。
インナーはピッタリとしたピンクのキャミソールで、明らかにノーブラとわかる柔らかそうな乳房が、腕組みをした手の内側で思わせぶりに揺れていた。


いつもの凛とした制服姿と違う無防備な感じが、たまらなく色っぽい。




ほんまにもう……
なんちゅう可愛さやねん。




「入る?」


相原はたいして嬉しそうな顔をするわけでもなく、サンダルを鳴らしながら俺に近づくと、肩のあたりで右手の親指を立てて見せた。


「え?……入るって……かまへんの?」

「別にいいよ。お母さん今日夜勤だし」



そうか―――。
そういえば以前誰かに、相原の家は母子家庭だと聞いたことがある。
夜勤ということは母親は看護師か何かなのだろう。


俺は予想外の展開に戸惑いながらも、他人に対してガードが固そうな相原が、自分のテリトリーに俺をすぐ招きいれてくれたことが嬉しかった。


狭いエレベーターに二人きりで乗り込むと、急に相原の髪からシャンプーのいい香りが漂ってきた。


これはあかん。
ヤバイ。


俺はジャージを履いてきたことを後悔した。

必死で違うことを考えようとするが、目の前の色っぽい相原と、これから部屋で二人きりになると思うだけで、俺の愚息は情けないくらいに落ち着きを失っていた。



俺の焦りを知ってか知らずか、相原は無表情でスタスタとエレベーターを降りて廊下の中ほどまで進むと、慣れた手つきで頑丈そうな扉の鍵を開けた。


相原の後に続いて玄関に足を踏み入れると、たたきにはたった今脱いだばかりの相原のサンダルがぽつんと一足あるだけだった。


俺の家の男臭い玄関と違って、花のようないい香りがした。



薄暗い家の中はテレビの音さえせず――シン――と静まりかえっている。


がらんとしたダイニングの豆球が、何も乗っていないテーブルの上ををぼんやりと照らしていた。


母親がいない時、相原はいつもこの静かなマンションの中で一人ぼっちで過ごしているのだろうか。


俺はついさっき出てきたばかりの騒がしい我が家の居間を思い出して、胸がキュッと苦しくなった。


薄暗いキッチンで紙パックのオレンジジュースをグラスに注いでいる相原の小さな背中が、たまらなく切なく、愛おしい。


お前の孤独は俺が全部受け止めたる。
これからは俺がずっとお前のそばにいたるわ―――。


俺はこみあげるような激しい衝動に駆られて、相原を後ろから抱きしめた。


「……あっ……」


相原の手元が大きくぶれて、ジュースが調理台の上にたくさんこぼれてしまったが、俺は構わず腕にギュッと力をこめた。


「……ジュース……」


相原はさっきまでの冷ややかな態度が嘘みたいに、急にしおらしく弱々しい声で言った。


「ジュースより……お前がええ……」


俺は相原の髪に顔を埋めながら囁いた。少し汗ばんだうなじに後れ毛がはりついている。

「……ヤマト……」


相原は俺の腕の中で窮屈そうに身体の向きを変えると、背中にそっと手を回してきた。

受け入れてもらえた安堵感で俺も一気に肩の力が抜ける。さっきまでの相原のあまりに素っ気ない態度に、知らず知らずのうちにひどく緊張していたらしい。




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