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異端児カラス
【学園物 官能小説】

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記憶-2

額にいやな汗がびっしり浮かんでいる。

振り返るとマネージャーの真純が心配そうに立っていた。


「大丈夫ですか……?顔色悪いですよ」

「ああ……ゴメン。ちょっとぼんやりしてた。……備品のチェック、終わったよ」

俺は注意深く『おだやかな表情』を作って微笑んだ。
真純は深刻な顔で俺を見上げている。

「……先輩。最近ヤマト先輩にふりまわされ過ぎじゃないですか?」

真純の言いたいことはわかっている。

半年前にヤマト目当てで陸上部に入部した何人ものマネージャーが、この一週間で全員やめてしまったのだ。

ヤマトと相原が付き合っているという噂は徐々にひろがり始めていた。

その皺寄せは全て、副キャプテンである俺とマネージャーリーダーの真純にかかってきている。

責任感の強い真純が相当のストレスを抱えていることはよくわかっていた。

逆に今までよく我慢してくれていたと思う。

「ヤマト先輩のせいで、結局ヤナ先輩が一番大変な思いしてるじゃないですか」

真純は自分のストレスを俺にすり替えている。

そうすることで不満を俺にぶつけることを自分なりに正当化しているのかもしれない。

「私……ヤナ先輩がキャプテンになったほうがいいと思います……」



――馬鹿馬鹿しい。



浅はかな発想に苦笑してしまう。


真純が俺を好きだということは、ずっと前から気付いていた。

ヤマトを陰で支える真面目で優しい副キャプテン。

目立たない場所でコツコツと頑張っている努力家。

真純には俺がそんなふうに見えているのかもしれない。


恋愛感情というのは身勝手なもので、相手のありのままを好きになるのではなく、知らず知らずのうちに、好きになった相手を自分の理想像に無理矢理はめようとする。

真純は俺のことが好きだから、俺を『キャプテン』という型にはめたがっているだけだ。


肝心の俺自身がキャプテンをやりたいと思っているかどうかなんて彼女には無関係なのだ。



俺はそもそも群れるのが苦手だ。


チームプレイとか、団結とか、そういう熱いムードの中にいると、ヘドがでそうな嫌悪感に襲われる。

だからこそ俺は『群れなくてすむ』陸上を選んだのに、群れの先頭に立って旗をふりまわさなければならないキャプテンなどをやらされるのは正直真っ平なのだ。

本当はサッカー部に入るつもりだったヤマトを陸上部に誘ったのは俺だ。

ヤマトが転校してこなければ俺がキャプテンにならなければならなかっただろうし、そうなれば俺は陸上部をやめていたと思う。

ヤマトのたぐいまれなリーダーシップを誰よりも認めているのはこの俺だ。

そのヤマトをフォローし、支えることに俺は喜びを感じているのだ。

俺の存在を消しながら、俺の居場所を守ってくれる。

俺にとってヤマトは居心地のいい隠れ家のようなものなのだ。

ヤマトといると不思議と安心する。



それは、今まで特定の友人とベタベタするのが嫌いだった俺にとっては、初めての感覚だった―――。



「真純が頑張ってくれてることは、ちゃんとわかってるよ」

俺は柄にもなく優しいセリフを吐いた。

真純は俺の一言で他愛なく真っ赤になってうつむく。

今まで面倒な恋愛を避けるために真純とは距離を置いていた。

だが今日の俺はあの忌まわしい記憶のせいで少しむしゃくしゃしている。

真純のようなガキっぽい女は俺のタイプではないけれど、この陰欝な気分を晴らすのにはちょうどいい相手かもしれない。

このモヤモヤした気分を一刻も早く放出できるなら、相手は誰だって構わないのだ。


「真純のこと……俺はちゃんと見てるから」

一歩近づき髪をそっと撫でてやると、それだけで真純の身体はビクリと反応した。

すでにうっとりとした目で俺を見つめている。

簡単すぎてつまらないくらいだが、ガタガタ騒がれるよりはマシだ。


「……私……私も……先輩のことしか見てません……」

真純は瞳をうるませて今にも泣きだしそうな顔をしている。



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