記憶-1
夕方の体育用具室は苦手だ。
汗と埃の臭いがたちこめる、薄暗く狭苦しい空間。
この閉ざされた場所は、かつて親父と住んでいた、忌まわしい屋敷の『あの物置部屋』を思い出させる。
どれだけ忘れようとあがいても、肉体のすみずみに何度も繰り返し染み付いてしまった記憶は、いともたやすく俺を12歳の夏に引き戻すのだ。
頭が割れるように痛い。
激しい目眩と吐き気が俺を襲っていた。
「亮くん……」
女が猫撫で声で俺の名をよぶ。
ブラウスの前を大きく開き、痩せこけた身体に不釣り合いな大きな乳房を自ら揉みしだきながら俺に近付いてくる。
かつては美しかった女の顔は今はやつれて青白く、目ばかりがギラギラと異様な光を放っている。
その顔からはいつもの従順な家政婦の表情は消えうせていた。
屋敷の北側にある、昼間でもほとんど日の差さない物置部屋。
「亮くんのお父様がいけないのよ……」
女は後ずさりする俺を壁際まで追い詰めると、学生ズボンの上から俺の股間を乱暴にまさぐりはじめる。
「……ううっ……」
愛情などかけらも感じられない、その雑な指づかいに他愛なく反応する俺の未発達の肉体。
女は見下したような目つきで俺を睨みつけながら、硬くなっていく従順な俺のペニスを片手でもてあそんだ。
「……他愛ないのね……」
幼い俺の身体は、まるで呪いをかけられたように動けなくなっている。
性に関する知識は世間の中学一年生並に持ち合わせていたものの、これから自分の身に起こることを、その時の俺はまだよくわかっていなかった。
女はスカートをまくりあげ、俺の手を自らの薄暗い部分へと導く。
下着を何もつけていないその生暖かい茂みは、ぬるぬるとした粘液で恐ろしいほど濡れている。
俺は数日前にテレビアニメで見た、口からグロテスクな液体を吐き出すバケモノを思い出していた。
何をどう触っていいのかわからずに、俺はそのぬるついた茂みに硬直した手のひらを押し付けることしかできない。
「……指を入れなさい……」
女に導かれるまま恐る恐るぬるぬるの割れ目の中に中指を入れると、急激に内部の締め付けが強くなり、俺は指が食いちぎられるような気がして慌てて手をひっこめた。
「……ふん……まぁこれから教え込んであげるわ……亮くんが……アタシを満足させられるようになるまで……」
女はそう言うと俺の前にひざまずき、学生ズボンのファスナーをおろした。
「……や…やめてよ……」
恥ずかしいほどに勃起した俺の陰茎。
女は俺のトランクスを下ろし、躊躇なくそれを素手で握る。
快感というより、いきなり下半身をさらけ出された驚きと恐怖で俺は失禁しそうになっていた。
「……いいコだから……誰にも言っちゃダメよ……」
次の瞬間、女が真っ赤な唇をぱっくりと開いた。
その口の中にハッキリと、長く鋭い牙が見えたような気がした。
ヤメテクレ――――!!
「ヤナ先輩………?」
名前をよばれて我にかえった。