仮面-3
「……教室に戻んなさいよ……」
私はハッとして息を殺す。
「………もういいよ。どうせあと10分くらいだし……」
「……ダメよ。言うこと聞いて」
「別にいいじゃん……それよりさ……」
ヤナの低い囁き声と微かな衣ずれの音。
「……ダメよ……んっ……」
小泉の鼻にかかったような声と、唇を吸いあう微かな湿った音。
「……んっ……ふぅん……」
―――何これ?
―――マジ?
ヤナと小泉が??
ていうか……
ヤナってそういう奴だったの?
人は見かけによらない――というより単に私が今までヤナを全く見ていなかっただけなのか―――。
――にしても。
私がここにいるのわかってて普通こういうことする――?
思わず耳を疑ったが、二人の行為は止むどころか逆にエスカレートしていく。
「……センセー発情してるだろ……」
「……んっ……ダメだって……あっ……」
衝立の向こうでは小泉の呼吸がどんどん荒くなっている。
どこをどうされているのか、もはやキスだけてばありえないような喘ぎ声が漏れはじめている。
見えないだけに頭の中でやたら想像ばかりが膨らんでしまう。
何かを強く吸い上げるような音が何度も繰り返される。
事務用の椅子がキイキイと悲鳴をあげている。
「……あっ……そこ……ダメ……」
「ダメなことないだろ……こんなになってんのに……」
「きょ……教室に戻って……あっ……ん」
「……センセー……その顔そそる……」
私の存在を意識して明らかに焦っている小泉の声。それとは対照的に落ち着き払ったヤナの低い声がゾクリとするほど色っぽい。
ヤナは私に聞かれても構わないと思っているのだ。いやむしろわざと聞かせようとしているのではないかという気がした。
聞きたくないと思いながらも、知らず知らずのうちに意識を耳に集中させてしまう。
「……あっ……んんっ……ダメだって……」
「エロい下着じゃん……俺のこと待ってたんじゃないの……」
再び衣ずれの音。
そしておそらくストッキングを破ったと思われるビリッという音。
衝立の向こうの状況が生々しく頭に浮かんでくる。
「……やっ……ダメ……」
「そのわりに……すげぇベチョベチョ」
卑猥なヤナの言葉に思わずドキドキしてしまう。
私自身も、経血だけではない体液が秘裂からじわじわ溢れだしているのを感じていた。
「……はっ……はあっ……」
小泉の喘ぎまじりの吐息。
「センセー……何本欲しいの……?」
「……んああっ……亮っ……」
快感の高まりを示すぴちゃぴちゃという湿った音が次第に大きく激しくなり、気がつけば小泉の荒い吐息が保健室中に響き渡っていた。
声を出すまいとこらえているせいで、かえって呼吸が異常に荒くなっていて、逆にいやらしさが増して聞こえる。
「……んん……はあっ……」
「……すげぇ締まってきたよ……」
「……も……イヤ……はあっ……」
余裕たっぷりのヤナの声。小泉が絶頂に近づいているのが聞いている私にもはっきりわかった。
小泉の中で乱暴に動き回ってきるヤナの指の動きまで想像してしまう。
「ふぁっ……ふぁっ……はあああっ……」
小泉の掠れた悲鳴のような喘ぎ声のあと、何かがぶつかるようなガタンという大きくな音が響いて、保健室は突然静かになった。
あまりの静寂に呼吸するのもためらわれて、私は布団にくるまったまま無意識に口を手でぎゅっと押さえていた。
「……センセー……アソコに香水つけてんの?……エロいね」
冷静なヤナの声。
そしてチャイムが鳴った。