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異端児カラス
【学園物 官能小説】

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仮面-2

「保健室に行ったほうがいい」

ヤナは戸惑っている私にくるりと背を向け、スタスタと保健室のほうへ歩きはじめた。

「……自分で行けるからヤナは教室に戻ってよ」

私が言うと、ヤナはまるで小馬鹿にしたようにクスクス笑いながらこちらを振り返った。


「―――そんなにヤマトのことが気になるんだ?」


顔がパッと赤くなるのが自分でもわかった。


『―――ヤナは知ってるんだ―――』



ヤマトと寝たことを私は誰にも言ってないし言うつもりもないけれど、ヤマトはヤナにだけは言うかもしれないと思っていた。


ヤマトがヤナを信頼して何かと頼りにしていることは見ていればよくわかる。


陸上部でもキャプテンのヤマトが忙しすぎて手がまわらないところを副キャプテンのヤナがうまくカバーしているし、クラスの中でもまとめ役のヤマトが見逃している些細なことを、ヤナがちゃんと気付いてフォローしていることが多い。


リーダーシップのあるヤマトとよく気が利くヤナ。
お互いにいいところを発揮しあえるコンビという感じがする。


転校してきてまだ半年のヤマトが、唯一心を許している男友達はきっとヤナだけなのだろうと思う。


率直な性格のヤマトが、私とのことをヤナに話したとしても不思議ではなかった。



「ヤマトは俺のことを完璧に信頼しきってるから大丈夫だよ」


ヤナは一見穏やかな顔で笑っているけれど、その言葉の中に微妙な刺があるような気がしてならなかった。


確かに人のいいヤマトのことだから、私がつらそうにしているのをヤナが気付いてくれてよかったぐらいに思っているかもしれない。


それならそれで別に何の問題もないのだけれど……この胸がざわつくような違和感はなんなのだろう。


ヤナが保健室のドアをガラリと開けると、書類を書いていた養護教諭の小泉が顔をあげた。


「セーンセ」


「あら。どしたのぉ?……っと」

小泉は一瞬嬉しそうに立ち上がってヤナを招き入れたが、背後にいる私の存在に気付いた途端、慌てて教師の顔を作ったように見えた。


「センセー。このコ、生理痛だって」


―――はっ?


生理だなんて一言も言ってないのに、当たり前のようにヤナに言い当てられて私は思わずぎょっとした。


仮にわかっていたとしても普通の男子高校生が女教師に平然というセリフではない。


男子が「生理」などという生々しい言葉を使ったのに、小泉が顔色一つ変えないのも不自然だった。


はっきりとはわからないのだが、小泉とヤナの間に親密な男女独特の生々しい空気が漂っているような気がした。


『……なんかやだなぁ……』


微妙な居心地の悪さを感じながら、私は小泉に促されるまま衝立の奥にある小さなベッドに横になる。


「痛み止めと……鉄剤飲んどこうか」


小泉はカルテらしき紙に何やら書き込み、赤と白の小さな錠剤と、水の入った湯飲みを私に手渡しながら優しく微笑んだ。


その顔からはさっき感じたメスのオーラは完全に消えている。


私の気のせいだったのだろうか?



薬を飲んで横になってからも、私はまだ衝立の向こう側にいるであろうヤナと小泉のことが気になって仕方がない。


しばらくの沈黙のあと、小泉の声がヒソヒソと聞こえてきた。




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