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異端児カラス
【学園物 官能小説】

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孤独-3




―――去年の秋。



転校して来て初めての学園祭。
その時何気なく手にした文芸部の機関誌で、俺は初めて相原の存在を知った。


「文芸部」も「文学」も、それまでの俺の生活にとっては無縁のものだった。


あの時、ほんの数十分前に知り合ったばかりの女の子たちの「群れ」に誘われてなんとなく入った模擬店。


その薄っぺらい機関誌は、俺がたまたま座ったテーブルの上に放置されていた。


裏表紙は破れ、意味のない落書きがされていた。


取り囲む女の子たちの退屈な会話に飽き飽きした俺は、手持ち無沙汰でその冊子を手に取った。


パラパラと何気なく開いたページに―――相原がいた。



『私はカラス―――
華やかなフラミンゴの群れに迷い込んだ真っ黒い異端児』


そういう書き出しで始まる一遍の詩。


『私はカラス――』


――ドキリ――とした。


『華やかなフラミンゴの群れに迷い込んだ―――』


俺は顔をあげた。
目の前にいるのは確かに美しいフラミンゴたちの群れだった。

フラミンゴたちは、俺を囲んで実に楽しそうに笑っている。
だが俺はちっとも楽しくなかった。
フラミンゴたちの話す言葉は、俺には理解できない。


なぜなら俺はカラスだからだ。


羽をピンクに塗って、鳴き声を真似て、俺はフラミンゴの群れに紛れ込んでいる。
騙されている馬鹿なフラミンゴたちを心のどこかで軽蔑しながら。



『真っ黒い―――異端児』



隠していた俺の本性を、真正面からいきなり指差されたような気がした。



心臓がドキドキして、俺はその詩を何度も何度も読み返した。
まわりの音が一切聞こえなくなり、俺はその詩の世界に没入した。



詩を読んでこんな感覚になるのは生まれて初めてだった。


この詩―――
誰が書いたんやろう。



2年D組 相原博美……
………2年D組?

うちのクラスに
そんなヤツおったか?


それ以来、俺は相原のことが気になって仕方がなくなった。


意識するようになって気がついたのだが、相原はいつも俺を見ている。


授業中や放課後、何気なく相原のほうを見ると視線があうことが多い。


だがそれは俺がよく知っている「ファン」の目ではなく、どちらかといえば俺を哀れんでいるようにすら見える冷ややかな視線だった。


『それがホントのアンタなの?誰にでもいいカッコして馬鹿みたい』


相原の目は、そう言っているように見えた。


全てを見透かされているような不安感。


そして俺の本質に気付いている奴がいるという不思議な安堵感。


『なんやねんコイツ――』


そう思った時にはもう相原のことしか見えなくなっていた。




「陸上部……サボるくらいなら別に文芸部やらなくていいよ。ただでさえ忙しいのに」


相原はいつも教室にいる時のような抑揚のないトーンで言った。


生徒会の資料を読んでいた時、俺は偶然「廃部候補リスト」に文芸部の名前を見つけた。



文芸部が廃部―――。
相原が唯一自分を表現できる場所がなくなってしまう。


助けてやりたい。
そう思った。


―――いや、違う。
俺は生徒会長という立場を利用して、この絶好のチャンスに相原に近づきたかったのだ。


困ってる相原を助けてやったら好意を持ってもらえるかもしれん。


「ありがとう」なんて言うてもろて、イイ雰囲気になるかもしれん。


イイヒトぶって恩を売ろうとしてるけど、実は妄想と下心だけで動いている打算に満ちた最低の男。



それがほんまの俺や―――。





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