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「今日の日付けで」
【コメディ その他小説】

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「今日の日付けで」-1

「だったら、身体で払ってもらおうか」
タバコの煙を細く吐き、わざと低い声を出した。
彼女は困ったように下を向いた。
「いや、ジョークだよ、ジョーク。わかっているだろ。お礼なんか気にしないでよ。それよりさ、今度の金曜日にメシでもどう?」
彼女は恥ずかしそうにうなずいた。
彼女は会社の後輩であるとともに、男性社員一同の高嶺の花である。
そんな彼女がボクの携帯に電話してきたのは一時間前。
飛び出してきたタヌキを車ではねたそうだ。
そのショックで道路わきの木に車をぶつけていた。
「だから寂しい夜道は嫌いなの」
と運転席で涙をためていた。ボクはタヌキを木の下に埋め、
車を修理工場に運ばせ、彼女をマンションまで送ってやった。
そんなこんなで、もうすぐ日付けが変わる。
「こんな時間までありがとうございました。お礼はどうしましょう」
なんて律儀に気にしている。
そんな古風な彼女を今すぐ抱きしめたいと思ったけれど、
「身体で払ってもらおうか」なんてジョークをとばしてマンションを後にした。
これでもボクは紳士なのだ。

金曜日に女なら誰もが好きそうなイタリアンの店で食事をした。
日曜日に女なら誰でも好きそうな海までのドライブをした。
そして、次の金曜日、彼女と身体を重ねた。
恥じらいの表情、想像以上に柔らかで温かい身体。ボクはすっかり虜になった。
シャワーを浴び、バスローブを身体にまとい、
ドライヤーを使う彼女。
化粧を直しバックの中を探る彼女。
そんな姿を見ながら、ボクは彼女との未来予想図を描いていた。
帰宅するとエプロン姿の彼女がはにかんだ笑顔で迎えてくれる。
食卓にはサラダだのグラタンだの女の好きそうな料理が並んでいる。
そして、彼女がゆっくりとビールをジョッキに注いでくれる。
缶ビールなんかじゃないぞ。本格的な生ビール専用サーバーからなのだ。
そして今のようにボクの目の前に膝をそろえて座る。

「それでは、念のため領収書をいただけますか?ちゃんと身体で払いましたので。今日の日付けでお願いします」


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