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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英-30

 猛が着替えて戻って来ると、その手には、見慣れない金属製の棒状の物が握られていた。
「のう、これは、何じゃと思う? 洗面所の籠に入っておった」
 猛が握っていた物を差し出す。
「私は知らないです、そんなの」
 沙華は首を振って答えた。
「…何か、書いてありますけど」
「わ、見たい見たい、見せて?」
 悠樹がその棒状の物を奪って側面に刻印された文字を読み出した。
「えと…『本体上部の、ボタンを押せ』だって」
「…怪しすぎますよ、それ」
「これかな? えい、ぽちっとな」
 悠樹は、いきなりボタンを押してしまった。
「うわわわ、部長!! 何、押しちゃってるんですか!!」
 慌てふためく沙華。それを尻目に金属棒はザーザーと、ノイズ音を発し始めた。が、その音も次第に鮮明になっていく。
『…あー、あー、あー。テステス。聞こえてる? OK?』
 女性の声だった。この場に居る誰もが知っている人物、遊佐間琴葉の声。
 場に緊張が走る。
「わ!! 琴葉姉さん!! ひさしぶり!!」
 しかし、何の緊張も無い悠樹は、声のみの琴葉に気軽に声をかけた。
『あら、悠樹もそこにいたのね? …久しぶりって程、会ってない訳じゃ無いでしょう?』
「…これ、通信機か何かですか」
 ちょっとだけ声が震えている。悠樹と違い、他の皆はガチガチだ。
『そうよ。『携帯型超距離衛星経由電話一体型万能魔法ステッキ』っていう名前なの。コンセプトは『魔女っ子が持っていて自然な物』を目指したつもりなんだけど、どうかしら』
「…いえ…その、いいと思いますよ」
 どう見ても特殊警棒と言った方がしっくり来るフォルムに、否定的な返答ばかりが浮かんだが、そんな事を口に出来るはずが無い。
『そう、気に入ったのなら妃依にあげるわ』
「…あ、ありがとうございます…」
 貰ってしまった。捨てたらばれそうだし…どうしよう、コレ。
「そ、それはともかく…お尋ねしたいのですが…」
 おっかなびっくりに燐が尋ねた。
「遊佐間先輩…あ…弟さんの方ですが…先輩は何所に…」
『聡? ここに居るけど…代わりましょうか? …聡、ほら、何か喋りなさい』
 パーン、と、乾いた音が『魔法ステッキ』の向こうで響いた。平手打ちの音だ。
『うが…!! ね、姉さん、それより何か着る物をくれ…寒くて死ぬ…あああああ…』
 聡の声は寒さで震えていた。風呂場で拉致られたのだから、何も着ていないのも当然と言えば当然だ。
『お黙り』
 今度は、ガンッ、とも、ゴッ、とも取れるような鈍い音が聞こえた。ついでに呻き声も。
『…し、死ぬ、マジで死ぬ…ね、姉さん、俺が何をしたっていうんだ…?』
『別に、ただの私の暇潰しよ』
『ひ、暇潰しで殺されるのか…俺は…』
『やだ、殺したりなんかしないわよ? 大切な、たった一人の可愛い弟なんですからね』
『う、嘘だ…』
『何? 聡は私に愛されている事がそんなに苦痛なの? ああ、姉さんは悲しいわ…』
 再度、ガスッ、ゴシャッ、といった類の音が聞こえた。いつしか呻き声は悲鳴に変わっていた。
 それを戦慄しつつ黙って聞いていた皆(悠樹以外)は『この人は本物の悪魔だ…』と再認識した。
「ねえねえ、琴葉姉さん、どうして聡君を連れてったの?」
 こういった核心に触れるような質問が出来るのは、既に、この場では悠樹だけだった。
『え? ああ、そうだわ、それを話すためにその『ステッキ』を置いて来たのよね。うっかり忘れるところだった』
 琴葉は小さく、コホン、と咳払いをする。
『聡をここに連れてきた理由は、まあ、貴方達が暇そうだったから、よね』
「…どういう、意味ですか」
『聡を返して欲しかったら、学校まで取りに来なさい、って事よ』
『が、学校!?』
 全員(悠樹以外)の声が唱和した。
「どうして学校にいるの? 琴葉姉さん」
『そうね…夜の学校って、こう、魔の巣窟のような、そんな空気があるじゃない? だからかしら』
 意味不明だった。が、
「ふーん…きもだめし、ってこと?」
 悠樹だけには意味が通じたようだ。
『そうよ。まあ『夏と言えば肝試し』とも言うし、ね』
 そんな格言聞いた事も無い。
「でも、琴葉姉さん、警備員の人とかに見つからないの?」
『大丈夫、きっと今頃は…いえ、何でもないわ。気にしないでいいのよ』
 凄く不安にさせる事を言い放った。
『じゃ、そういうことだから、別に助けたくないなら来なくてもいいわよ? その代わり…各人、後悔することになるでしょうけどね。フフ…』
 ブツッ、というノイズで、会話は一方的に終了した。


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