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ARMORED CORE HIS ANSWER
【二次創作 その他小説】

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人類種の天敵(上)-1

 彼女の50mほど前方で、巨大な爆発が起こる。時速1000キロで飛び回る死神から放たれた分裂ミサイル、SALINE05が前方の味方に直撃したのだ。プライマルアーマーが消し飛び、裸となったGA製の巨体に残ったミサイルが直撃する。数秒後には、半分吹き飛んだ単眼のカメラアイをこちらに向けた残骸が転がっていた。武器腕のバズーカが一本空を舞い、そのまま彼女の足下まで転がってきた。

「ローディーも落ちたか」

 彼女、セレンは淡々とつぶやいた。これで4機目がやられたことになる。残った機体はセレンのシリエジオと、たった今GA最強のネクストを葬った男だけだ。男の愛機--レイレナードがその技術の全てを注ぎ込んだ03-AALIYAHのフレームを使用した機体--ヴィルトゥを着地させる。金属の摩擦音と火花を散らしながら、流線型のフォルムがセレンの前に現れる。白を基調としたカラーリングをしたその機体は、ゆっくりとセレンへ向き直った。ヴィルトゥの後方には、鮮血の代わりに火花とオイルを散らすフィードバック、GA最強だったネクストの死骸が横たわっている。空気抵抗を考慮して鋭く、そして流れるように設計されたアリーヤのフレームに、こびり付く返り血を見て、セレンは自らの目を疑った。統合制御体は何ら異常を訴えていない。シリエジオの光学センサは正常なのだ。そして一度瞬きするとその返り血は消えてしまった。

(怯えているのか、私が?)

 修羅場を幾度となく経験してきたセレンだが、目の前の機体、いや男にセレンは恐怖していた。

 セレンが固まって動けずにいると、ヴィルトゥの方が先に動いた。BFF製のライフル2挺が火を噴く。徹甲弾の群れがシリエジオに向かう。シリエジオは即座に右へとクイックブースト。コンデンサからエネルギーが解き放たれ、機体は右へと高速移動した。獲物を逃した徹甲弾は防衛用ノーマルの格納倉庫に次々と飛び込み、あっという間に破壊し尽くした。

 だが弾丸は途切れることなくシリエジオを襲う。1発、シリエジオに弾丸が命中した。PAの物理干渉によって威力を減衰されつつも、緑色の障壁を突破した弾丸は機体に直接届く。右肩に被弾。セレンは連続被弾を避けるために後方、そして右へのクイックブーストを繰り返す。彼女は時速数百キロで空中を切り裂き、BFF製ライフル2挺の攻撃を辛うじて躱している。そして凄まじい速度の中FCSのロックオンのが終了、レールガンをヴィルトゥに向けて放った。青い光とともに、電磁誘導によって弾丸が時速1万キロを超す速度で吐き出される。だが音を凌駕する速度の攻撃者は、ヴィルトゥがいたはずの地面に大穴を穿つだけだった。

「バカな! あれを避けるなど」

 最強の兵器であるネクストとはいえ、搭乗者は人間である。その反射神経では数百メートル足らずの距離で発射されるレールガンを回避することは不可能、のはずであった。だが、ヴィルトゥはシリエジオがレールガンを発射する直前に、左にクイックブーストしセレンの眼前から消えていたのだ。それは、シリエジオの攻撃を先読みした回避だった。セレンがその事実に気づくと同時に、右から徹甲弾の雨が降ってくる。ヴィルトゥが宙を舞いながらライフルを連射しているのだ。装甲を貫くことに特化した徹甲弾でさえPAを前にすれば1発では大したダメージを与えることはできないが、何発も浴びれば話は別だ。連続クイックブーストと、レールガンの発射によってコンデンサ内の蓄積エネルギーが一時的に空になり硬直したシリエジオに、次々と徹甲弾が着弾する。硬直状態であるシリエジオは獰猛なタングステンの獣によって装甲を削り取られていく。いくつかはコアに直撃し、内部にいるセレンの肉体にまでその衝撃が直に届いた。

 統合制御体からの警告を無視してその場にシリエジオは留まる。丸みを帯びたフレームに徹甲弾が突き刺さり、統合制御体からの損傷報告も激しさを増している。

 そして突如、シリエジオはサイドブースタの噴射炎とともに右に旋回する。コンデンサにエネルギーが再充填されたのだ。風圧で足下の軍用トラックが紙のように舞った。ゆっくりと降下しているヴィルトゥを即座にロックオンすると、レールガンを発射。だが、ヴィルトゥは外壁の外へと降下し、レールガンはアルテリア・カーパルスの外壁に大穴を開けるだけだった。

(コンデンサへのエネルギー充填の時間と、その後の攻撃を予測していたというのか?)

 セレンは呆然とする。アルテリア・カーパルスに「狂人」をおびき寄せ、最精鋭ネクスト部隊で撃破する。そういう作戦だった。オールドキングを撃破したまでは良かったが、「彼」によって次々にカラードランク上位のネクストは撃破されていった。彼女の育て上げたリンクスが、今や彼女と、世界を滅ぼそうとしている。

(なんとしてでも止めなければならん。あれは、強くなりすぎた。そして、その力の使い道を見つけてしまった)

 彼との出会いを、セレンは忘れることは無いだろう。部屋の中で従順に研究員の指示を聞いていながら、目には反抗的な光を灯していた男。そんな男に興味を持ち、なんとか手に入れたあの日のことを。手に入れたはいいが、結局、リンクスであるセレンは彼にネクストの操縦技術を教え込むしか無かった。師匠として彼に戦闘技術をたたき込み、彼は凄まじい速度でネクストの操縦技術を会得していった。そして、彼の活躍を知ったORCA旅団からの誘いに乗り、彼は世界の敵となった。

 それもいいだろう、そうセレンは思っていた。ORCAの理念に賛同した彼を今まで通りサポートするつもりだった。この計画を遂行することが、彼の生まれた意味なのだと、勝手に納得してしまっていたのかもしれない。だが、ORCA旅団として戦う彼の目にはまだ、無機質で気が狂いそうなほど生活感の無い「実験室」にいたときと同じように、光が灯っていたのだ。そして彼は今、人類の敵になろうとしている。



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