投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 468 やっぱすっきゃねん! 470 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VP-9

 翌朝。青葉中グランド。
 整列した部員の前に立つ、永井と葛城。

 本日から準々決勝。
 事前に知る相手チームのデータを、今一度頭に叩き込むため、ブリーフィングに余念がない。

「話は以上だが…」

 ブリーフィングを終えた永井は、紙面から顔を上げると、視線をひとりの選手に向けた。

「佳代。肩の具合はどうだ?」

 昨日の連絡で状態は把握していた。が、“ある決断”のために、今一度、訊いておきたかったのだ。

「あの…」

 口ごもる佳代。

「あの…診断じゃ、かなり良いそうです。…す、すぐに戻れるだろうって」

 何故か、事実を隠してしまう。報告を聞き、永井は表情を緩める──迷いは消えた。

「じゃあ、大丈夫かもしれんな」

 佳代は、硬い表情で俯いてしまった。そんな変化に葛城は気づいた。

「では、本日のメンバーを発表する」

 永井がメンバー表を読み上げる。

「…5番加賀、6番稲富、7番秋川…」

 その間も、佳代は顔を上げようとしない。

(どうしよう…あんな嘘云っちゃって)

 このまま、何もせずに終わるのはイヤだという思いが、嘘をつかせた。

 永井の読み上げが、レギュラーから控え選手に移った時、彼女は信じられない言葉を聞いた。

「…16番澤田」

(えっ?)

 仰天するような選出に、周りが一気に騒ぎだす。

「ど…どういう事ですか?監督…」

 佳代にも無謀とも思える采配。永井の真意を問い質そうとする声は、消え入りそうだった。

「静かにしろ!」

 ざわめきが止んだ。永井が思いを口にした。

「藤野コーチと相談した時は、お前をベンチ入りから外そうと決めていた…」

 佳代は思わず、唾をのむ。

「しかし、試合から遠ざけてしまっては勘が鈍る。だから、メンバーに入れる事にした」
「ちょっと待って下さい。じゃあ、わたしはその為だけに?」

 大会は大詰めを迎えて、ひとりでも多く戦力が必要なのに。まして、このチャンスにベンチ入りを願う者もいるはずだ。

 彼らへのチャンスも、みすみす潰すのか。

「そんな…わたしは、試合を見るためだけにベンチに入るんですか?」

 永井は頷いた。

「チームが勝ち進むには、必要と判断した。以上だ──」

 その顔には、ある種の決意が浮かんでいた。

 藤野と永井。相反する思惑に、佳代の胸中は複雑に揺れていた。






やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 468 やっぱすっきゃねん! 470 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前