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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章その2-3

 城内を巡っておしゃべりを交わすうち、ジュリアスとユートバルトはすっかり打ち解けたようだった。
 やや青ざめていた顔色も元に戻り、利発で快活そうな表情がよく似合う。
 三人が菓子専用の厨房の前を通り掛かった時、焼き菓子の匂いがぷんと漂った。
 ごくん、と期せずして三人の喉が鳴る。
「ここは王族の特権を利用して菓子をせしめ……もとい、徴発……いや、ちょっと手に入れてくる」
 敬謙そうに言うとユートバルトはジュリアスの手を離し、厨房へ入っていった。
 残された二人の間に、沈黙が落ちる。
「……なぁ」
 声をかけると、ジュリアスはびくっと震えた。
「な、何でしょう?」
 後ろをついて歩いていただけの自分には、やはり懐いていない。
「いや……お前さぁ」
 体をかがめ、ジュリアスと目線の高さを揃える。
「本当に大公爵の息子か?なんつーか、あまり似てないから……」
 母親似なのかとも思うが以前見た事のある彼女の肖像画はしとやかなご婦人で、美しくはあったがジュリアスとはあまり似ていない。
「……よく言われます」
 僅かに視線を逸らしながら、ジュリアスは認めた。
「……ティトーさんは、僕の祖先の肖像画を見た事はおありですか?」
「祖先?」
 怪訝な顔をするティトーを、ジュリアスは横目で一瞥する。
 やっぱり、いけない食指がむずむず動いた。
 礼装を開いてその喉元や鎖骨に唇をつけ、滑らかな肌を味わってみたいが……さすがに年齢が二桁に突入したばかりのお子様を歯牙にかけるのは、自分の倫理に反する。
「テシウス・バルガン・クァードセンバーニ。クァードセンバーニの開祖とされる方で、僕と弟は開祖にそっくりなんです」
「なるほど……」
 いわゆる、先祖返りというやつだ。
「あぁ、俺にさん付けはいらない。ティトーだけでいいぞ」
 にっと笑って髪をわしゃわしゃと掻き乱してやると、ジュリアスはくすぐったそうに目を伏せた。
「立場的には俺よりお前の方が上なんだしな。面倒だから、敬語もなしだ」
 乱された髪を整えながら、ジュリアスは片目を開ける。
「あんたがいいなら、それで構わないけど……」
 急に対等の口ぶりになったジュリアスを見て、ティトーはくすりと笑った。
「構わないから言ってるんだよ。代わりに俺も、お前を敬わないけどな」
「それでいいよ。大公爵公子の立場にあるだけで敬語を使う大人はたくさんいるから、かえって新鮮だしね」
「……なかなか言うな」
 か弱い見かけを裏切る発言に、ティトーは心底嬉しくなった。
 馴染んでくれば横柄にすら見えるその態度は、彼をいたく刺激する。
 とりあえず、二人の滑り出しは順調だった。


 三人は、すぐに仲良くなった。
 人の心をほぐすのがうまいユートバルトがジュリアスの緊張をほぐしてしまえば、将来は国を維持・発展させていかねばならない同志という連帯感が友情を後押しする。
 ユートバルトの傍へ常にティトーとジュリアスがいる事が王城に出入りする人間にとってお馴染みの光景となるのに、さほどの時間は要しなかった。
 将来ユートバルトを支える事を義務付けられた、貴族の子弟達。
 王子の覚えがめでたい者と、そうでない者。
 ジュリアスのように強大なバックボーンを持つ者を快く思わない一派は、確実に存在する。
 それをその日、ティトーが嗅ぎ付けたのは全くの偶然だった。




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