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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-6

「……ほえ?」
 わけの分からないバランフォルシュの言い草に間抜けな声を上げた時、深花は体の痛みに気づいた。
「ったあ……!」
 思わず率直な感想を漏らし、起き上がろうともがく。
 何故か周囲で悲鳴が上がり、誰かの手が両肩を押さえ付けた。
 全身に包帯を巻かれていて見えるものも見えないので、深花は一瞬震えてその人物が誰なのかを探った。
「深花っ……おま、生き……!」
 声さえ聞ければ、それが誰なのかは分かる。
「ジュリアス?」
「そうだ、俺だ!」
 体を、きつく抱き締められる。
「よく無事でっ……よく生きてた……!このまま死ぬんじゃないかって……俺っ……生きてた……!」
 喜びのあまり支離滅裂な言葉を呟きながら、ジュリアスは何度も鼻を啜った。
「あ、あのさ、痛い……」
 骨が軋む感触に、深花は声を出した。
「あ、ああ……」
 抱き締める力は緩んだが、抱擁は解かれなかった。
「生きてる……」
「畜生、奇跡を信じたくなるじゃないか……」
 その涙声から、ティトーが近くにいるのも分かる。
「けど……」
 沈痛なフラウの声に、深花は首をかしげた。
「けど、何ですか?」
「……深花。君の目は失われてしまったと医者が宣告してる。もう見る事は叶わないと」
 ひどく事務的に、ティトーが告げる。
「ああ、その事でしたら心配いりません」
 深花は包帯の上から、自分のまぶたを押さえる。
 中身は、しっかりあった。
「今までバランフォルシュ様の訪問を受けてまして、目を返してくれるって」
 三人の間に、無言の衝撃が走った。
「バランフォルシュの……訪問?」
 乾いた声で、ティトーが言った。
「はい……あ」
「あ?」
 ジュリアスの声に、深花は眉を寄せる。
「バランフォルシュ様が禁じられてるっておっしゃってたのに……しゃべっちゃった」
「うっかり者め」
 たいした疑問には思わなかったジュリアスはその一言で済ませるが、ティトーは考え深げに呟く。
「……返す、だって?」
「?……はい」
「返す……か」
 何秒か考え込んだティトーだが、すぐに諦めたらしい。
「とりあえず、君の帰還を喜ぼう」


 それから、数週間後。
 うららかな日差しが降り注ぐ病室のベッドに、深花とジュリアスの姿があった。
 しゃりしゃりと、果物の皮を剥く音がする。
「ほれ、口開けな」
「ん」
 口を開けると、一口分に切り分けた果物が差し込まれる。
 果肉を舌で口蓋に押し付けると、甘味たっぷりの果汁が溢れ出して口一杯に広がった。
 味は洋梨、果肉は和梨に近い。
「ん!」
「気に入ったか?」
 微笑んだジュリアスはもう一つ、果物を差し込んだ。
 シャクシャクした歯ざわりと甘い果汁を、深花は存分に堪能する。
 何個か食べさせてもらってから、深花は疑問を口にした。
「……フォークに刺してもらえれば、自分で食べられるけど」
 さすがに、自分の口の位置は間違わない。
 そう思ってそう言うと、こつんと軽い拳固が頭に入った。


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