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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-21

「ふわ」
 面映ゆくて声を出すと、誰かが腕を掴んで立ち上がらせた。
「すっかり忘れてた。そろそろ目を洗う時間だろ」
 でこぼこした歩きにくい地形なので、ジュリアスは深花を抱き抱えた。
「隊舎に行って、湯をもらおう」
「うん」
 歩き出したジュリアスの首に、深花は腕を回す。
 体が近づくと、ふわりと甘い匂いが一瞬鼻腔を通り抜けた。
 知り合ったばかりの頃にはなかった、深花の体の匂いだ。
 親密に接しているからこそ分かるのだが、深花はバランフォルシュの影響を受けて……いや、受けすぎている。
 感化されやすいと言えばそれまでだが、そもそも精霊が人間にここまで絡む方が異常なのだ。
 土神殿での悶着後に書かれたレポートは誤字脱字などのチェックも含めてジュリアスも閲覧しているからこそ、彼は思う。
 何かが変だ、と。
 ティトー共々普段そんな事を考えないのは、この考えが精霊に嗅ぎ付けられたらまずい事を本能的に悟っているからでしかない。
「……あれ?」
 深花の声に、ジュリアスは歩みを止めた。
「どうした?」
「ち、ちょっと待って」
 慌てた様子で、深花は包帯を解き始めた。
 全て解き終えた深花は、片手を何度も目の前で振り始める。
「?」
「……見えてる」
 驚いたあまり、ジュリアスは深花を地面に落としてしまった。
「ったあい!」
 悲鳴などお構いなしに、ジュリアスは深花の両肩を掴んでその目を覗き込む。
 黒目がちな、今までと変わらない瞳がそこにあった。
「目……戻った」
「うん。戻ったよ」
 ジュリアスに向かって微笑むと、彼は感極まった風に背中へ腕を回してきた。
 きつく抱き締められ、深花は驚く。
「ジュリアス……」
「俺を見て、笑ってくれたな……!」
 後頭部にまで手を回した念入りな抱擁に、深花は目を白黒させているしかなかった。
「おい、どうした!?」
 ティトーの声に、ジュリアスは我に返る。
 しかし、深花を離したいとは思わなかった。
 それよりも、むしろ……。
「!」
 ぐっと顔を持ち上げられたかと思うと、ジュリアスの顔が重なってくる。
「あ……」
 荒々しいキスに、深花は目を閉じた。
「はーい出歯亀はいけませんよー」
 フラウの肩を抱いて百八十度回転すると、ティトーは呆れてため息をついた。
 なんだあのバカップルは、が正直な感想である。
 あれだけいがみ合ったくせにおとなしくキスを受け入れたりして、どうやら深花もジュリアスを憎からず思っているようだしさっさとくっついて欲しい所だ。
 フラウの後ろ姿に視線を這わせた後、ティトーはその場を去ろうと歩き出した。
「は……」
 しばらく唇を貪られた深花は、ジュリアスが離れると震える息を吐いた。
「……悪ぃ。嬉しくって、つい」
「……どうして謝るの」
 後悔するなら、キスなどしないで欲しかった。
 無駄に期待させて振り回すとは、意外とひどい根性の持ち主である。
「いや……」
 弁解しようとしたジュリアスは、深花の視線に気づいた。
 呆然としたような、ひどく動揺している目つきだ。
「フラウさん、逃げてっ!!」
 喉からほとばしった絶叫に、ティトーが振り返る。
 いつの間に、彼はそこにいたのか。
 フラウの背後にいる男は、歪んだ笑みを浮かべていた。
「収穫だぁ。こんなにうまくいくとはとは、思いもしなかったが」
 男の手はフラウの唇を顎ごと掴んで黙らせ、腰に腕を回して引き寄せる。
「あばよ。追い掛けてこれるもんなら、追い掛けてきてみな!無理だろうがな!!」
 天敵・水色の男はフラウを抱え、高笑いを残して消え失せた。
 あまりの事態に、三人は微動だにせずフラウがいた地点を凝視する。
 しかし、いかに眺めようとも連れ去られたフラウはどこにもいない……。


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