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凪いだ海に落とした魔法は
【その他 官能小説】

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凪いだ海に落とした魔法は 3話-53

「彼女は違うよ。君と同じだ」
「私と? あの人もテストの問題を買ったの?」
「そうだよ」と僕は頷いて、「こうやって沢崎に会わせろとか言い出す怖いもの知らずなところもね」と付け足した。
「え?」

予鈴が鳴った。昼休みが終わったようだ。まるで僕たちを観察していたようなタイミング。

「もう行こう。次は現国だ。遅れた奴には“全文朗読の刑”が待ってる」と僕は言った。





夜に電話をして、沢崎に白川慧のことを説明した。

「志野。いつからお前は女の仲介屋を始めたんだ。頼んでもいないのに問題のありそうな女ばかり紹介しやがって」

沢崎はそう言ったけど、“問題のありそうな女”を引き寄せているのは彼のほうだった。僕は至って普通の男子高校生であり、これまで“問題のありそうな女”とは無縁だったのだ。沢崎と話すようになったのが切っ掛けで日下部沙耶と話すようになり、ろくに話したことのない白川慧まで関わることになった。因果を辿れば沢崎拓也に行き着くじゃないか。もちろん自分に責任がないとは言わないが、僕が厄介事を持ってくるトラブルメーカーみたいな言い方は止めてもらいたい。“問題のある男”に“問題のありそうな女”が引き寄せられているだけなのだ。問題児にはそういう引力でもあるのだろう。

「まあ、話は分かった。会うだけは会ってやる。謝れば秘密を守ってくれるなら謝りましょう」

まるで脅威に感じていない様子で沢崎が言った。

「随分と気楽だな。バラすと言ったらバラす女だぞ、白川慧は」
「その時はその時だ。女にできる口止めなんて思い付かねえけど、何とかなるだろ」

こういう男だ。トラブルはいくらでも舞い込んでくる。
それでも、沢崎が「何とかなる」と言うなら本当に何とかなりそうな気がするのだから、僕もまた彼に引き寄せられている人間の一人なのだろう。





翌日、学校が終わったあとで、僕と沢崎と白川慧の三人は駅前のマクドナルドに集まった。
――二度あることは三度ある。そう言ったのは誰だろうと僕はポテトをかじりながら考えていた。

「何だって?」

食べ終えたテリヤキバーガーの紙袋をくしゃくしゃと潰しながら、沢崎は胡乱げな声を出した。

「だから、私も手伝ってあげるって言ってるの。日下部さんのこと。あ、志野くん、私のピクルス食べてよ。苦手なんだこれ」

言われるまま彼女のチーズバーガーからピクルスを抜き、口に入れる。二度あることは三度ある、とまた僕は思った。

「またこの展開か」

沢崎も呆れたように苦笑する。
六時間目の授業が終わったあと、僕は白川慧と沢崎のクラスに向かった。沢崎と合流してマクドナルドに向かう道すがら、日下部のことを彼女に話した。何故そういうことになったのかと言えば、白川慧が異様に日下部のことを気にしていたからだ。土曜日に僕たちが日下部と一緒にいたことが、どうも腑に落ちないらしい。その疑問はもっともだ。沢崎拓也と日下部沙耶はこの学年の二大有名人だが、決して相容れるタイプではない。ついでにごく普通の生徒である僕も、その二人とつるんでいるようなイメージではなかった。竜と虎と犬が仲良くなるには、それなりの理由があるはずだと白川慧は勘繰った。怪しげな人間関係に関する噂話は女子生徒の好むところであり、格好の話の種なのだ。彼女の追求を何とか誤魔化そうとする僕の努力など無視して、沢崎が口を滑らせた。というより、元から彼には秘密にしているつもりはなかったのだろう。訊かれたことに答えただけで、悪気があったわけではない。日下部沙耶は“楽しさ”を感じることができない人間だ、などという荒唐無稽な話をすれば、日下部も含めて“痛い奴”だと思われるに違いない。そんな僕の憂慮などお構い無し
で沢崎が僕たちと日下部の協力関係をバラしたというわけだ。


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