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凪いだ海に落とした魔法は
【その他 官能小説】

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凪いだ海に落とした魔法は 3話-45

「もしかして、嫌われてるのかな? 私」
「好かれてないだけだよ」
「同じ意味じゃないの。それ」
「違うだろ。好意がないからと言って嫌悪があるとは限らない」
「志野くんは?」
「僕?」
「そう。私の顔見たとき、ちょっと面倒臭そうな顔したよ。傷付くなあ。あれってもしかして嫌悪なの?」

それとも、何か後ろめたいことでもあるの? そんな核心に触れそうな目で、彼女は言った。

「いや、少し驚いただけだよ」

まさかバレていたとは。少し白川慧の洞察力を侮っていたのかもれない。

「そうなの?」

笑みを絶やさぬまま小首を傾げる白川慧。

「そうだよ。嘘つく必要はないだろ」と僕は言った。
「おい。俺はもう行くぜ。日下部も行っちまったし」

沢崎が歩き出した。白川慧以外の三人が、何処か残念そうな顔をして彼の背中に視線を送っている。

「僕もそろそろ行くよ」
「ええ。じゃあまた学校でね、志野くん。今度はゆっくり話しましょうね――」

彼女は微笑みながら手を振ったけれど、そこには何か別のメッセージが込められている気がしてならなかった。自分が執行猶予を与えられた被疑者であるような気持ちになってくる。
――白川慧。警戒する必要があるかもしれない。





僕たちはショッピングモールから5百メートルほど離れた場所にある大型スーパーでカップ麺を買った。店内の隅に自販機やテーブルを置いた小さな休憩スペースがあり、そこで昼食を摂ることにする。僕たちの他には小学生が二人いて、買ったばかりのアイスを微笑ましく舐めていた。

「さっきの連中、何なわけ。お前ああいうのがタイプなのか。白川、とか呼んでたっけ」

割り箸を口で割りながら、声をもごもごさせて沢崎が言った。

「何でそうなる。“お客様”だよ、あの娘は。だから、お前と一緒にいるところを見られたのは、ちょっとまずかった。感付かれてはいないと思うけど、怪しまれてはいるかもな」
「あん? 何でよ」
「菊地が僕のことを話したらしい。ただ、何故か僕はお前の共犯者じゃなくて“お客様”の一人ってことになってる。加害者と被害者が休日に遊んでるなんておかしいだろ?」
「なるほどね。何でまたそんなことになったのかは知らんが、気にするほどでもないだろ」
「そうか? ああ見えて勘は鋭そうだぞ、あの娘」
「ふん。勘ねえ。まあ大丈夫じゃねえの。仮にバレたとしてもだ、あの手の女は自分の損得勘定はちゃんとするもんだ。罰則覚悟で密告なんて、割りに合わないことはしないと思うぜ。気にしすぎだろ」

そうだろうか。むしろ僕には、怒らせたら自分の不利益を顧みずに制裁を与えようとするタイプに思えるのだが。意外とああいう女の子のほうがヒステリックな気がする。

「君はどう思う」

問われた日下部は窓辺に座った猫みたいに微動だにせず、じっとカップ麺を見詰めている。理知的な面立ちをした美人が、スーパーの片隅でカップ麺が茹で上がるのを待ち続けている様は、何ともミスマッチな光景だ。


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