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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-9

「……ユートバルト」
 今まで黙っていたティトーが、口を開いた。
「根本的な質問なんだが……お前、どうして姉にプロポーズしないんだ?」
 ティトーの質問に、ユートバルトが固まった。
「お前が十年もぐずぐずしてるから、伯母貴が痺れを切らして二択を突き付けてんだろ?お前が結婚を躊躇う理由は何だ?」
「それは……」
 押し黙るユートバルトを見て、深花は決意を固めた。
 ユートバルトが思い悩む事柄は、打ち明けてしまった方がいい結果をもたらす事になると思う。
「殿下。お約束を裏切る事をお許しくださいませ」
 ユートバルトの思考が追いつかないうちに、深花は暴露した。
「殿下は顔のそっくりな従妹と結婚する事で、ナルシストと思われやしないかとご不安なんです」
 それを聞いた三人の顔に、呆然と驚愕の入り混じった表情が浮かぶ。
「はぁ!?」
 一番最初に反応したのは、やはりティトーだった。
「おま……そんなくだんねえ理由でずるずると結婚を引き延ばしてたのかよ!?」
「まぁ、当人にとっちゃあ深刻でも他人からすると馬鹿馬鹿しい悩みなんてよくあるよな」
「でも、いくらなんでも……」
「殿下」
 深花はユートバルトに言った。
「私から言わせていただければ、殿下のお悩みは『外野はすっこんでろ』程度のものです。王子という立場にある方が生涯の伴侶を決めたなら多かれ少なかれ、色々な意見が出るでしょう。ならば未来の王妃として納得できる女性にプロポーズする方がよろしいのではありませんか?」
 ユートバルトは、大きなため息をついた。
「……皆は、私の事をナルシストとは思わないのか?」
「心底馬鹿だと思う」
 ティトーが、あっさり言った。
「こんなくだらない事で十年もうじうじ悩んでるくらいなら、とっとと相談しろってんだ。姉との結婚に反対する奴がいたらすぐに教えろ。後悔するまでそいつのカマ掘ってやるよ」
 ジュリアスは、ニヤリと笑う。
「ま、実家と縁切り中の俺としてはあまり言う事はないな。個人的にはレンターナ侯爵令嬢の事は好きじゃないし、ファスティーヌが王妃の方がしっくりくる」
 フラウは、肩をすくめる。
「あたしは二人についてきただけですので、とやかく言う事はありませんわ。基本的にはジュリアスと同意見です」
「ね?」
 深花は、にっこり笑った。
「一人で悩むより、周囲に相談なさいませ。色々な人の意見は、殿下の考えをまとめるのに役立ちますわ」
「一人で煮詰まってたら、ろくな事になんねえよ。俺達はお前を支えるためにいるんだから、悩んだらさっさと相談しろ」
「……」
 ユートバルトは、無言で目を伏せる。
 それは気まずいというより、ティトーの言葉を噛み締めている風だった。
「……皆、ありがとう」
 しばらくして、顔を上げたユートバルトはそう言った。
「覚悟がついた。今からファスティーヌを呼んで……いや、伯爵邸まで迎えに行く」
 ユートバルトが席を立ち、部屋を出ていく。
 ティトーとジュリアスは手の平を打ち合わせると、心底嬉しそうに笑った。
「十年もぐずぐずしてたのが、ようやく片付く日が来たか」
「しかし、深花……君はどうやって伯母貴の意図を読んだんだ?」
 ティトーの質問に、深花は面食らった顔になる。
「別にそんな……質問に王妃様が答えてくださったので、そこからあれこれ組み立てただけです」
「なるほど……」
 ティトーは考え込む表情になると、親指の爪を噛み始める。
「隠されていた意図がいい加減結婚を決断しろと息子の尻を叩く事だった、つうのは拍子抜けだけどな」
 ジュリアスの言葉に、ティトーは目を見開いて頭を掻きむしり始めた。
「くっそ!伯母貴にしてやられたーっ!」
「は!?」
 驚く三人に、ティトーは言う。
「伯母貴は一つの策で二つ以上の結果を出すのが常套手段なんだよ。だから今回も裏に何かあるんじゃないかと思ってたら……まさかユートバルトを結婚させるためだけにこんな噂をばらまくなんて、普通考えないって!」
 三人は、顔を見合わせる。
「ちっくしょ……まだまだ伯母貴にゃ敵わねえ……!」



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