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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-4

「……まさか君に助けられるとは思わなかったよ。ありがとう」
 礼を言われた深花は、曖昧な笑みを浮かべた。
「どちらの意見が正しいか、私には分かりかねます。だからティトーさんが殿下を責めるのが、少し見ていられなくて」
 それを聞いて、ユートバルトの表情が変化した。
「……そういえば君は、リオ・ゼネルヴァに来て日が浅いんだったな。少し頭の整理がしたいから、お喋りに付き合ってもらえないだろうか?」
「いいですよ」
 二人は、テーブルを挟んで椅子に座った。
「君は、王室の事をどこまで聞いているのかな?」
 ユートバルトの質問に、深花は少し考え込む。
「ほとんど何も。聞いた事があるのは王妃様がティトーさんの伯母に当たる事と、殿下がファスティーヌさんとお付き合いされている事くらいですね」
 それを聞いたユートバルトは、小さく笑った。
「じゃあ、そこから補足しておこうか。母の生家は、ファルマン准男爵家。准男爵という位は正直に言ってあまり裕福とは言えないから、年頃になった母は父の侍女という職を見つけて王城入りしたんだ」
 侍女として身の回りの世話をするうちに耳へ入ってくる言葉から政治の諸々を学習した王妃は、王に対して具申を始める。
 最初は使い物にならない意見ばかりだったが、その発想や着眼点の非凡さに気づいた王は彼女に高度な政治的采配を教え込み、やがて片腕やら腹心などと呼ばれるまでに成長。
 その頃には二人の間にはしっかりと愛が育まれていて、生家の地位の低さが問題視されたものの王が自ら手塩にかけて育てた部下という側面を汲んで二人は結婚。
 王妃は今も政治の表舞台に立ち、日々政務をこなしている。
「さすが血縁と言うべきか、母の得意分野はティトーとよく似ていてね。策謀に非常によく長けている……だから母の出したレンターナ侯爵令嬢と私が婚約したという噂を私自身が消すのに、どうしても躊躇いがあるのだよ」
 婚約の噂が何かの一策なら、潰す訳にはいかない。
 けれどこのままなら、噂を本気にした家臣の誰かが本当に婚約を進めかねない。
 ユートバルトの悩み所は、ずいぶん深刻なようである。
「……ちょっと聞いてよろしいでしょうか?」
 素朴な疑問を、深花はぶつける。
「何だい?」
「ファスティーヌさんとの交際は、どなたかが反対されているのですか?」
 その質問に、ユートバルトは面食らった表情になる。
「いや……表立った反対はない。もしあったとしたら、私達は十年もこうしていられないだろう」
 答を聞いた深花は、思案する。
「……ではどうして、ファスティーヌさんとご結婚されなかったのですか?」
 突っ込んだ質問に、ユートバルトは視線を泳がせた。
 成人年齢の早いリオ・ゼネルヴァにおいては、結婚年齢も低い。
 まさかいとこ同士であれば恋人としての付き合いは許容範囲内でも結婚は別問題、という珍妙な掟があるのでもなさそうなのにどうして十年もぐずぐずしていたのかが、深花は疑問だった。
「……決して笑わないと、約束してくれないだろうか?」
 しばらくして、ユートバルトはそう頼んできた。
「私にとっては、非常に深刻な問題なんだ」
 答えるのに躊躇う頼みだが、深花は頷いた。
「努力はします」
 ユートバルトは、ほっとした顔になる。
「ありがとう。これは君が王室の事情をあまり知らないからこそ打ち明けられるんだが……見ての通り、私の顔は不幸にも母方に似てしまっている」
 一族共通の垂れ目・左の目尻に黒子・薄い唇・癖のある美形顔。
「王室の歴史もそれなりに長いから、血縁関係にある人間との婚姻も前例は山ほどある。同じ家から二代続けて嫁いでくる事も珍しくはあるが前例がない訳ではない。しかし……」
 問題の核心らしく、ユートバルトは大きくため息をついた。


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