投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 123 異界幻想 125 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-20

「打ち合いはともかくとして、関節技からの抜け出しはまだまだだな」
「ここが戦場なら、捕捉された時点で殺されても文句は言えないものね……」
 悔しそうに言う深花へ、ジュリアスは笑みを向ける。
「そういうこった」
 生かす価値のある人間ならたとえ天敵が相手でも殺しはしないだろうが、はたして自分達にその価値があるかと問われると……たぶんない。
 よほどの事情が関わらない限り、自分達の後釜に座る人間は山ほどいる。
 それなりの厚待遇を受けているとはいえ、軍上層部にとって神機パイロットは取り替えの利くパーツでしかない。
 今の神機パイロットであれば男達は後々政治の表舞台に立つ事になるから救いの手は差し延べられるだろうが、女二人は……何かあったら見殺しにされるだろう。
 イリャスクルネが失踪してから打ち切られていたバランフォルシュのパイロット候補生も育成再開という噂を小耳に挟んだし、二人が生き残れるよう頑張らねばならないなと思う。
 庇護せねばならない女と、愛したい女。
 どちらも、自分にとっては大事な女だ。
 二人とも自分を取り巻く地位や名誉や財産を知った上で態度を変えない、希少な存在なのである。
「……時間だな」
 日の傾き具合を見て、ジュリアスは呟いた。
 一日中二人とじゃれあっていたので、日が沈むのが早い。
「さてと……二人とも、そろそろ」
 訓練を切り上げるぞといいかけたジュリアスは、それを感じた。
 殺気。
 縫い糸よりも細い気配を察知し、全身が総毛立つ。
「伏せろ!」
 叫びながら、深花を体の下に入れて匿う。
「ふぎゃっ!?」
 瞬時の状況判断ができなかった深花は珍妙な悲鳴を上げたが、フラウは即座に従った。
「な、何!?」
「黙ってろ!」
 小さな声で叱られ、深花は遅ればせながら状況を理解しようとするのをやめた。
 ジュリアスは、冗談でこんな事をするような男ではない。
 ならば自分が察知できなかったなにがしかを感じ取り、かばってくれたのだろう。
 今の自分にできるのは、喚いて状況判断を遅らせる事ではなくジュリアスの指示に従う事だ。
「……終わったか?」
 用事深く周囲を見回しながら、ジュリアスは起き上がる。
「いきなり何?」
 同じく辺りを警戒しながら、フラウは尋ねる。
「……あれだ」
 ジュリアスは、少し離れた場所に立っている木を指差した。
 木の幹に、何かがきらめいている。
「……これは……」
 近づいていってきらめきを指に取ったフラウは、驚きの声を上げた。
 恐ろしく細い、糸のような針である。
「よくこんなのに気づいたわね」
「意識した訳じゃない」
 深花の腕を掴んで助け起こしながら、ジュリアスは言う。
「本当にごく僅かだが、殺気を感じた。あと一瞬遅れていたら、たぶん手遅れだったな」
「……誰が狙われたのか、分かる?」
 戻ってきたフラウが、ジュリアスに針を見せながら問う。
「そりゃ、こいつだろうよ」
 ジュリアスは、深花を示した。
「幹に刺さった針の位置からして、俺の胸やお前の肩を狙ったものじゃない。深花の喉を狙ってる」
「私!?」
 驚く深花を一瞥した後、ジュリアスは周囲を見回す。
「しかし、誰だ?殺したいほど恨む奴なんて、心当たりはないだろ?」
「うん……」
 露骨に向けられた殺意の恐ろしさに、深花は身震いする。


異界幻想の最初へ 異界幻想 123 異界幻想 125 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前