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熱帯夜
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それから-2

『元気なかったもんね』

投げかけられた思いがけない言葉がずっと耳の中で反復してる。
そうか、あたしは元気がなかったのか…
そんな自覚はない。いつも通りでいたのに。


『みのりさん』


聞こえるはずのない声が聞こえて、開けられなくなった窓に目をやった。
あの子に会えなくなっただけで、あたしはこんなにもダメージを受けるのか。

あの日々を思い返すと、あたしは泣いたり喚いたり、秀君の前で醜態を晒しただけだった。
それでも秀君は優しかった。
話を聞いてくれた。
外に連れ出してくれた。
駄目なものは駄目だとはっきり教えてくれた。
あたしのが年下みたい。

笑った顔が好きだった。
ちょっと強引なとこも。
優しいとこも。
あの日、最後の会話の時に伝えたら良かった。
どうせもう会えないのだから。

元気でいてと願ったあたしがぶっ倒れてどうすんだ。
ここにいると思い出しちゃう。早く治して活動しなきゃ、忘れられないよ…


*****


本当に会わないもんだな…

高くなった空を見上げてしみじみ思った。
みのりさん、元気かな。

窓越しの会話が終わってから、もう一ヶ月が経とうとしてる。
みのりさんに会えなくなってからというもの宿題は全く手につかず、休み明けの課題テストは散々な結果に終わった。おかげでクラスメートがグラウンドで体育大会の練習真っ只中に俺だけ一人教室に残されて補習。
いいけど。
どうせ体育大会も乗り気じゃないし一人で静かにしていたい気分だし。
思い出しても仕方ないんだ。だって全部自分で蒔いた種なんだから。

補習用に用意されたプリントは一向に減らない。こんな心境じゃ何年かかっても終わらないだろうな。
静まり返った教室をぐるりと見回した。
見張りの先生もいないし、帰ろ。
さっさと帰り支度を済ませて逃げるように教室を抜け出して昇降口に行くと、

「秀徳ー」
「…」

静かにしていたい気分だったのに、よりによって一番やかましい友達に呼び止められた。

「なんだよ、その嫌そうな顔は」
「別に」

やかましい友達・吉村は、一人で帰ろうとしていた俺の気など知ろうともせず、遠慮なしに話しかけてくる。


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