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熱帯夜
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それから-1

あたし達社会人に夏休みなんてものは関係ないけど、それでも夏休みが終わったんだなと自覚させられる。
出勤時間にランドセルを背負った小学生や制服に身を包んだ中高生とすれ違うなんて、ここ一ヶ月なかった光景だ。


カレンダーが9月になって、近所の高校から体育大会の練習をする声が聞こえてくるようになった。
通りすぎる風は熱風から涼風に変わり、あんなにうるさかった蝉の声もいつの間にか聞こえなくなっていた。
生活の至るところで秋を感じるようになってるのに、まだまだ昼間は暑いし当然熱帯夜も続いてる。
それでも部屋のあの窓とカーテンはあれから一度も開けていない。
あの日、秀君に最後に会った日から――…

会いたいと思う自分の気持ちをぐっと押し込んだ。
電話番号を知ってるんだから、連絡はとろうと思えばとれる。実際何度も電話しようとした。でも携帯を開いてアドレス帳を秀君のページにしても、そこで終わり。それ以上は何もできない。
秀君だってあたしの携帯番号を知ってるはずなのに一切連絡をしてこない。そんな人に自分から何かするなんて無理。
それにあの子の好きなのは――…

あたしにできることは、ただ時間が過ぎるのを待つだけ。記憶の中から秀君が出てくのを待つしかない。
今頃どこでどうしてるのか、おばさんとはきちんと別れられたのか。
聞きたいことはたくさんあるけど、思うことはいつも同じ。

今日も、元気だといいな…





『熱!?』

電話の向こうから聞こえる同僚の声が大きすぎて耳に刺さりそう。

「うん、ごめん…」

夜中からだるくて、朝体温を測ったら自分でもびっくりの39度越え。多少の熱なら我慢して出勤するけど、この状態じゃ行ったところで何もできそうにない。

『あんた最近元気なかったもんね』

同僚の思わぬ発言にびっくりしたけど、今のあたしには聞き返だけのパワーがない。

「仕事、大丈夫?」
『あんたの分くらいみんなで分けりゃ何とかなるわよ』
「ごめん」
『今度何かおごってね』
「ん」

力弱く返事をして電話を切った。

熱出すなんて、久しぶり…

成人の娘が発熱したところで家族は特に心配もせずにそれぞれ出勤して行き、唯一気を利かせた母親が用意してくれたアイス枕に重い頭を乗せた。

その母親は出掛けに「アイス枕が一つ無いんだけど知らない?」と質問してきて、とりあえず聞こえてないふりをした。
お隣りの奥さんの愛人にあげちゃったよ。肌触りが良くて大好きだったタオルと一緒に。


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