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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章-8

 男色家でもないのに他人の尻を借りるのは、控えめに言っても褒められた振る舞いではないとされる。
 ティトーは恋愛において男でも女でもイケる口だが、他人に無理強いする事は一切ない。
 ジュリアスとは最大限の友情と最高の信頼で結ばれているが恋愛感情はお互い砂粒ほども持ち合わせておらず、そういった面で不快な思いをする事は全くなかった。
 だが、伍長は違う。
 己の都合と欲望のためにいかにもひ弱そうな少年に目をつけ、官位を盾に彼を脅しているのだ。
「勝たなきゃならない理由が増えたか」
 ジュリアスは、ため息混じりに呟いた。
「ずいぶんな自信だなぁ、二等兵」
 嫌みっぽい声は、背後から聞こえた。
 ゆっくりと、ジュリアスは振り返る。
 にやにやとどうにも好きになれない笑みを浮かべたラザッシュが、近くにいた。
「全員整列!点呼!」
 少し離れた場所でアパイアが声を張り上げたため、ジュリアスは小さく鼻で笑ってから整列に合流した。
「本日は、対人格闘訓練を執り行う!教官はアパイア伍長、呼ばれた者は伍長と様々な条件の下で組み手を行うように!」
 点呼が終わると、ラザッシュがそう言った。
 様々な条件とは……先手を打たれた事に、ジュリアスは苦笑する。
 どんなにアパイアに有利な条件でも、そう主張されれば新兵は引っ込むしかない。
「一番手は……そうだな、お前!」
 ラザッシュの指は、ジュリアスではなく……後ろに隠れていた少年を指した。
「は、はい!」
 上ずった声で、少年は返事をする。
「アパイア伍長は木刀を使う!お前……二等兵!貴様はナイフの使用を許可する!」
 少年は軍曹からナイフを受け取ったが……鞘から抜いたその刀身は、どう見ても錆び付いていてなまくらである。
 対する伍長は、樫か何かの頑丈な木材から削り出したいかにも威力抜群そうな木刀だ。
 少年が明らかにみせしめのための生贄に選出されたのだと気づき、ジュリアスは顔色を変えた。
「おい!」
「……」
 少年は黙って首を振り、諦めている事を示した。
「っ……!」
 それ以上の言葉が、喉から出てこない。
「よ……よろしくお願いします!」
 必死さのにじむ声を張り上げると、少年は伍長に打ちかかっていった。


 担架に乗せられて運ばれていく少年を目だけで追いながら、ジュリアスは腹の底が煮えくり返るのを感じていた。
 少年は、伍長に完膚なきまでにたたきのめされた。
「これが武器をもつ利点である!」
 得意顔で、ラザッシュは声を張り上げる。
「彼もナイフを持っていたからこそ、ここまで持ちこたえる事ができた!さあ、次は素手対剣での訓練を……」
「俺が立候補しよう」
 低い声で、ジュリアスは言った。
「伍長、文句はあるか?」
 ジュリアスに一睨みされたアパイアは、ニヤリと笑って木刀を地に置いた。
 代わりに手にするのは、ラザッシュから受け取った抜き身のロングソード。
 さすがにこれは、人だかりからどよめきが起こった。
「引くなら今のうちだぞ?ん?」
 にやにや笑っているラザッシュを、ジュリアスは睨みつける。
 その形相に、ラザッシュは一瞬震えた。
「……!」
 小僧相手に怯んでしまった事に気づき、ラザッシュの顔は首まで真っ赤に染まる。


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