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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章-12

「承知いたした、ジュリアス二等兵」
「以降はそのようにお願いする、ガルヴァイラ少将殿」
 救護用品を片付けながら、ティトーは問う。
「ところでお前、軍曹の事はどうする?」
 言われたジュリアスは、きょとんとした顔になる。
「どうするって、何を?」
「……お前なぁ」
 頭痛を覚えたティトーは、側頭部に手を当てた。
「教練を担当している現役の軍曹をぶちのめしておいて、何もしないじゃ済まされないだろうが」
「ラザッシュ軍曹とアパイア伍長にすれば、何も仕込んでいない新兵と見物していた他の下士官の前で、面目を丸潰しされた事になる。あの二人がどう出るかは、私にも謀りかねる」
 ガルヴァイラのフォローに、ジュリアスは渋面を作った。
「やっぱりそこまで考えてなかったな」
 ため息混じりに、ティトーは呟いた。
「だって、ラザッシュもアパイアも気に食わなかったんだ……」
 唇を尖らせて拗ねる様は、年相応に幼い。
「俺達に媚びてどうする。媚びるんならラザッシュ相手にしとけ」
「い・や・だ」
 ティトーの呆れ声へ即座に反駁すると、ジュリアスは口をへの字にひん曲げた。
「強情っ張りめ」
 ティトーとガルヴァイラは顔を見合わせ、同時にため息をついたのだった。


 数日後。
 腕の傷がある程度癒えてから、ジュリアスはまた教練に参加する事になった。
 定刻前に弓道場へ行くと、新兵達はジュリアスを見て十戒の如く左右に割れる。
 その場にいる誰もが自分を恐れて近づこうとしないのを見て、ラザッシュと派手にやり合ったのが少々やり過ぎだったとようやく実感する。
 まあやってしまったものはしょうがないと開き直り、ジュリアスは壁に立て掛けてあった本日の教材……クロスボウに手をかけた。
「……うわ」
 あまりのバランスの悪さに声を上げ、ジュリアスは思わず手を離す。
 いったい誰なのかは知らないが、よほど適当なメンテナンスをしていたらしい。
「どうした、クロスボウは気に入らないか?」
 後ろからラザッシュの声がしたため、ジュリアスはそちらへ振り向く。
 目を保護するためか、ラザッシュは地肌が透けるくらいに薄い布地を目に巻いていた。
「小僧、貴様のおかげで俺の目はご覧の有様だ。一体どういう血液をしてやがる」
 その口調はジュリアスをなじるというより、どこに面白がっているように聞こえた。
「伍長はまだ関節がうまく入らず、ベッドから離れられないしな」
「……」
 反りの合わなかった年端もいかない小僧に下された事を、怒っている風ではない。
 しかし、ジュリアスは警戒を解けなかった。
 ほんの数日前には自分をいびり倒そうとしていた人物から愛想よくされて警戒をやすやすと解くほど、彼は甘くない。
「そういう理由で教官としては不本意だが、本日の教練は貴様に一任する。クロスボウの扱いを新兵達に叩き込んでやってくれ」
 つい、とラザッシュが近づいてきてジュリアスの耳元に口を寄せた。
「頼んだぞ、大公爵公子閣下」
「……!」
 さっそく正体がばれた事に、ジュリアスは歯噛みした。
「そうだな……少なくとも狙った所に当てられるくらいには習熟させて欲しいものだ。では、頼んだぞ」
 ラザッシュがその場を去っていくと、新兵達が歓声を上げた。
「……おい、お前達」
 不穏な声が、歓声の間に割って入る。
「何をそんなに喜んでる?」
 新兵達が振り返ると、そこにはクロスボウを担いだジュリアスがいた。
「まず一つ」
 ジュリアスは、クロスボウに片手で矢をつがえる。


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