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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章-11

「どうした、逃げてばかりでかかって来ないのか?」
 ラザッシュの挑発に、ジュリアスは笑いで返す。
「刃物を持った相手にこんな武器で特攻できる訳ないだろ」
 こちらを追い詰めるための一撃を捌きながら、ジュリアスはラザッシュの隙を窺う。
 得物のリーチの長さはいかんともしがたく……逃げるジュリアスと仕掛けるラザッシュ、両者の体には次第に疲労が溜まっていく。
「息が上がってるぞ、小僧!」
「そっちもな!」
 ジュリアスは、ラザッシュに見えないよう木刀を握り締める。
 一瞬顔を歪めると、少年はいきなり軍曹に向かって突進した。
「なっ!?」
 逃げてばかりいたジュリアスが急に攻めへ転じたため、ラザッシュは思わず声を上げる。
 その怯みに、ジュリアスは付け込んだ。
 ラザッシュの目に向けて、片腕を振るう。
 赤黒い液体が、ラザッシュの顔面に当たった。
「ぐあっ!?」
 目潰しを食らったラザッシュは足を止めるが……ジュリアスを近づけないよう、目茶苦茶に剣を振るい始める。
 しかし、目の見えなくなってはどうしようもない。
 隙を見出だしたジュリアスは足に飛び掛かり、ラザッシュをグラウンドに引き倒した。
 ラザッシュの手から剣をもぎ取って放り捨てると、軍曹の上に馬乗りになる。
 後はただ、ラザッシュが降参するまで殴打するだけだ。
 ジュリアスが拳を振り上げた、その時。
「よぅし、それまで!」
 聞き覚えのある声が、人だかりの後ろから聞こえた。
「皆、気合いの入った訓練ご苦労」
 優しく柔らかい声に、ラザッシュは震え上がる。
「誰か救護班を呼び、軍曹の処置をするように」
 知らない若造の声が、ラザッシュに対する処置を告げる。
「ジュリア……二等兵。すみやかに軍曹を解放し、我々と一緒に来てもらおうか」


「全く、来た途端に派手な立ち回りしやがって」
 腕の傷に包帯を巻きながら、呆れた声でティトーは言った。
「公子閣下らしいと言えば、この上なく公子閣下らしいお振る舞いですな」
 やんわりと、ガルヴァイラは言う。
 ここは、基地長官室……ガルヴァイラの部屋だ。
 用事を済ませたティトーが基地に戻ってきた所、耳に入ってきたのは新入りの若造と古参軍曹が確執を下敷きにし、格闘訓練と称して私闘を行っているという噂……嫌な予感がしてガルヴァイラを連れて現場に行けば、今まさにジュリアスがラザッシュを殴ろうとしていたのである。
「これでよし、と。しばらくは腕を使うなよ」
 嫌みを込めて、ティトーは傷口を思い切り叩いてやった。
「いでーーーーっ!!」
 ジュリアスが、派手に悲鳴を上げる。
 ラザッシュに目潰しを食らわせた赤黒い液体は、ジュリアスが自前で供出したもの……平たく言えば、自らの血液だった。
 使い物にならなくなった木刀を手放さなかったのは、ラザッシュに目潰しを食らわせるために必要だったからである。
 半ばから折られた鋭い断面で肌と肉を掻き取り、血管を傷つけてやらねばならなかったのだ。
 傷つけたのはさすがに利き腕ではないが、馬鹿な事をしたものだとティトーは思う。
「それにしても公子閣下」
 やんわりした口調を崩さず、ガルヴァイラは尋ねた。
「何故にご身分を伏せて入隊したのですかな?」
「ああ、それは……」
 事情を知らないガルヴァイラに向けて、ティトーは簡潔に説明した。
「……俺は実家と縁を切る。だから今後は俺の事を、公子閣下とは呼ぶな」
 事情を理解したガルヴァイラは、僅かに肩をすくめる。


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