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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章-10

 アパイアの発言を知らなかったのか、それとも部下の性嗜好を暴露されて不快を覚えたのか。
 いずれにせよ、安い挑発でラザッシュの頭はますます沸騰した。
 それでも、いきなりジュリアスに打ちかかるほどには冷静さを失っている訳ではない。
 長剣を真正面に構えたまま微動だにせず、痺れを切らしたジュリアスが攻め込むのを待っていた。
 しかし、ジュリアスにはこのまま攻め掛かってやる気など毛頭ない。
 ラザッシュがロングソードを構えているのに対し、自分はただの木刀一本。
 油断していたアパイア相手には隙と不意を突く事で乗り切れたが、ラザッシュは一筋縄ではいかないだろう。
 そこでジュリアスは、ラザッシュだけでなく下士官達の意表を突く作戦に出る。
 人だかりの斜め後ろ……ラザッシュからは見えにくい位置に視線をやると、さも驚いた風に目を見張った。
「ようガルヴァイラ。わざわざ新兵訓練の視察に来たのか?」
 いかにも気安そうな声を出すと、下士官達は一斉にそちらを向いた。
 ガルヴァイラ少将は、何と言っても基地のトップである。
 士官が見ていないからこそ下士官達は新兵訓練と称して気に入らない新入りをいびったり好き放題できる訳で、このように度を越した格闘教練の現場を見られるのは率直に言ってかなりまずいのだ。
 ラザッシュも例外ではなく、ほんの一瞬だが注意がそちらへ逸れる。
 ジュリアスには、それで十分だった。
 立っていた場所からラザッシュの傍まで一気に間合いを詰めると、渾身の一撃を見舞う。
 しかし、ラザッシュも伍長ではなく軍曹まで昇進している男だ。
 ジュリアスの特攻に気づくと、即座に剣を振るう。
 耳障りな破砕音と、何かが風を切る音がした。
 軽い音と共に、半ばから折れた木刀がグラウンドに落ちる。
 軍曹の長剣は……無事だった。
「……くそっ!」
 鋭い断面を見て、ジュリアスは毒づいた。
「小僧……舐めた真似をしてくれたな」
 憎々しげに呟いた軍曹だが、ふと思案顔になる。
「どうして貴様が少将殿の名前を知っているんだ?」
 思案は質問となって、ラザッシュの口から紡がれた。
 少将という地位は軍内部では上から数えた方が早いくらいの上位だから、たいていの人間はその顔を知っている。
 しかし、顔と名前が軍外の人間に知られているかというと……知名度は、そんなに高くないのだ。
「知っているから知っているだけさ」
 ジュリアスは、そう嘯いた。
 別に種や仕掛けのある話ではなく、城で遊んでいると国のお偉方とは自然に面識ができるというだけの事だ。
 ガルヴァイラの事もたまに王城へ顔を出したり暇ができればティトーやユートバルトを交えて剣術指南をしたりと遊んでくれたので、たまたま顔を見知っていたに過ぎない。
「隠された経歴、って事だな」
 ラザッシュはそう理解すると、剣を構え直した。
「さて小僧、貴様の得物は折れて使い物にならなくなった訳だが……まだ続けるか?それとも、降参するか?」
 ジュリアスは、不敵に笑う。
「嫌だね」
 一言で切って捨てると、折れた木刀を構えた。
「ここで降参するという事は、あんたの軍門に下るって事じゃないか。そんなのはごめんだ」
 ラザッシュが、同意の笑い声を立てる。
「腹に一物抱えたままの部下なんぞ、こっちだって願い下げだ。いいだろう、勝負だ」
 白黒つける事で合意した二人は、慎重に間合いを詰め始める。
 先に仕掛けたのは、ラザッシュだった。
 身軽な動きで攻撃をかわしながら、ジュリアスはチャンスを待つ。
 アパイア戦と同じ僥倖は期待できない分、慎重にやるしかない。


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