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熱帯夜
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二日目-3

「インターホンが三回も鳴ったから出たんですよ」
「おばさんが出ると思ったの」
「出ないよ、いないもん」
「みたいね。買い物?」
「実家帰った」
「は!?」
「同窓会だって」
「はぁあ〜?」

母親の実家帰省発言はお姉さんの眉間に溝のような深いシワを刻ませてしまった。

「愛人に留守番させてるの?」
「いや、まぁ…、大丈夫ですって。誰か来たら親戚って言えばいいし」
「そーゆう問題?」
「それより、何か用?」
「あ、…これ」

そう言って差し出されたのは回覧版。

「これって隣の家に持ってけばいいんですか?」
「そう、隣の――…って駄目でしょ!」
「えぇ?」
「あなたは人に見られちゃまずいの。あたし持ってってあげるから今すぐ読んで」
「…」

仕方ない、自分で蒔いた種だ。
言われるがままに回覧版を開いて、テキトーに目を通した。

「ちゃんと読んだ?」
「いや、いいです。覚える気ないし」
「メモってよ」
「メモってよ」
「あたしが?」
「俺覚える気ないし」
「…」

お姉さんはため息と同時に俺から回覧版を取り上げると、会社の制服らしい事務服のポケットからメモ帳とペンを取り出してその場にしゃがみ込んだ。
つられて俺もしゃがんでお姉さんの手元を覗き込む。

何か、大人の女って感じ。

関わった事のない年上の女性の雰囲気や柔らかないい匂いにクラクラする。

事務服、眼鏡、時折耳に髪をかける仕草…
やばい、百点かも。

「…なぁに?」

あまりにもじろじろ見る俺の視線はお姉さんに簡単に気付かれた。

「仕事帰りですか?」
「そうだけど」
「制服姿、素敵ですね」
「…何言ってんの?」
「褒めてるんですけど」
「なんか、薄っぺらい」
「薄…っ」
「はい、これ」
「は、へっ」

渡されたのはメモの切れっぱし。小さな綺麗な字で町内会の行事予定が書いてある。
資源回収に防災訓練、あさっての花火大会の注意事項…

「あなたには関係ないことばかりね」
「いや、花火は行きたい」
「まさかおばさんと行くつもり?」

まさか!
想像しただけで気持ち悪い!!

「花火と屋台が好きなんです」
「あたしも」
「あ、そうなんすか?」
「うん。屋台メニュー大好き」
「じゃあ一緒に行っちゃいます?」
「へ」

会話の流れに任せて誘ったものの、完全に空気が変わってしまって。


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