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『魔人』と『女聖騎士』
【ファンタジー 官能小説】

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第三話――魔人と死神と皇国の聖女-2

「まあ、心配なのはわかるがな。彼奴らも――元敵兵であるパスク・テュルグレを排斥したい者共も、そう、やすやすとは手を出せまい?なにせ、腐っても『聖人』様だ」



「あらあら、隊長?パスクさんは腐ってませんよ」



「これは失敬。しかし、まあ、実際……これほどまでに聖獣八ヶ国の連携が脆いとは思いもしませんでしたな」



マデリーンが主君に対し、肩をすくめた。

エレナも、一瞬の逡巡ののちに頷く。



「そう、ですわね。結束――という言葉は、簡単に口にできても、実行ともなれば別ですから……」



儚げな面持ちの少女姫。

アリスはそんな主君を労わるように見つめ、そして、再び馬場へと目を戻した。

そっと、その鳶色の双眸を細める。無意識のうちに指で栗色の髪の先をいじると、ここ一月の激動を反芻した。





パスクが――自分の恋人にして、恩人にして、『魔人』の字を持つ魔導師であるパスク・テュルグレが『リンクスの聖人』であったという告白から、一ヶ月が過ぎようとしている。

その間、聖獣八ヶ国にとっては大国賓であるエレナ、パスクはそのそれぞれの部下が随伴させ、ペガスス王国第二の都市アッセンデルから、その王都ホワイトホース、そしてペガススの隣国であるドラゴン王国首都、ここ『リンドブルム』へと転々とさせられた。

この竜の国には聖獣八ヶ国――正確には聖獣七ヶ国とゴルドキウス帝国の占領下にあるリンクス王国の残存兵が集結していた。

リンクス王国と接している三ヶ国、ドラゴン、ペガスス、グリフォンの内でもっとも国土が広く、例え聖獣八ヶ国の兵が終結しても一月や二月は養うことのできる国だからだ。

聖獣八ヶ国連合軍――その数、一万二千。さらに、決戦時には各国がそれぞれ徴兵するのだから、この数倍の軍勢になることだろう。

大陸最南端の強国ゴルドキウスを相手どっても十二分に戦える戦力である。



……指揮系統に乱れがなければ、という言葉を付け加えなければならないだろうが。



八ヶ国の間には様々な軋轢が生じている。

まず、そもそもの問題――敵国の、それもリンクス王都を陥落させた狼戻の魔導師パスクの存在だ。

その若さで中隊長である、本来の実力はさらに上をいっていることだろう。味方としてはこの上なく心強いに違いないし、その戦闘能力の評価自体には異を唱える者はいないはずだ。

しかし、そうはいっても蛮行の徒――いつ寝首をかかれるかなどわかったものではないし、そもそも感情の部分で許せない者も多い。

加えて状況を複雑にさせているのは、パスクがリンクスの『聖人』であるということだ。傍らにはその象徴たる『聖獣』リンクスのパン――パンクチュアリエームがいるため、これもまた、異を唱える者はいないはずである。

……そして、この事実が人心を右往左往とさせた。

各々それぞれの心のうちだけでも敵意と敬服の両方を抱いていることだろう。




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