第三話――魔人と死神と皇国の聖女-19
……不死鳥の国『フェニックス』の国王セレスタン、王弟レオンス、彼の国の大司教アナクレトだ。
アリスが息を呑むのと、彼らがパスクの姿を見つけるとは同時だった。
パスクが、自分から彼らへと歩を向けた。なにか言われる前に、自分から話しかける腹づもりなのだろう。
そんな『魔人』に、あわてて着いていくアリス。
思い出したようにパスクが振り向くと、不死鳥の王族方を見つめていたハーティへと一言、付け足した。
「もし、必要なら私の名を好きなように使ってくれてかまいませんから。好きなように、ねェ……」
最後に、その血の気のない唇の端をそっと持ち上げた。
ポカン、と口を小さく開くハーティに、パンが――おそらくは、彼女の従獣に向かってだろうが――、解説しているのが聞こえた。
「好きなように、よ。あの『魔人』としての説得力でも、『聖人』としての強制力でも、『元敵国の魔導師』として仮想敵としてでも、好きなようにね」
アリスは、半歩前をいく男の横顔を見つめる。
なにがあっても大丈夫――そう思える、頼もしい顔付きだった。
「――なんなのだ、あれはっ！パスクは仮にも『聖人』なのだぞっ？それを、あのように好きなように誹るとは……」
懇談会が始まって一時間は経ったか――、料理卓の区画の端で、顔を真っ赤にしたアリスと、一方、涼しげな表情のパスクが並んで、壁際の椅子に腰をかけている。
アリスは思いつくかぎりの憤懣を口に出し終えると、そこでイワシの油漬けが乗せられたカナッペを頬張った。
ソレを咀嚼すると、隣でグラスを傾ける男に視線を送る。
男――パスクは、アリスの数えた範囲でも優に一本分の葡萄酒を呑んでいるはずなのだが顔色に変化なく、何度目だろう、グラスを空にした。
にこりと、この会場に来てから最高の笑みを浮かべ、見返してくる。